ファイナンス 2021年1月号 No.662
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3. 学校の休校措置と子供のパフォーマンスの関係冒頭において、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの教育機関が休校を余儀なくされ、その程度は地域間で差があることを見てきた。このような休校措置は全世界規模で実施されており、国際機関の推計では最も広範に休校措置が行われた4月には12億人(Azevedo et al.2020)から15億人(United Nations,2020)の子供が影響を受けたとされ、特に発展途上国においてその影響が大きいことが推定されている。こうした休校による教育機会の損失は、子供たちのパフォーマンスにどのような影響を及ぼし得るだろうか。パフォーマンスについては議論の余地があるが、ここでは子供の学力に焦点を当てて、新型コロナウイルスの感染拡大以前に行われてきた先行研究、及び昨今の新型コロナウイルス感染拡大の学力への影響に関する新規研究を概観してゆく。休校の子供の学力への影響休校が子供の学力に与える影響については感染拡大以前から数多くの実証分析が行われているが、その多くは学校外期間の拡大は子供の学力格差を拡大するとの結果を示している。例えば、Downey et al.(2004)は米国を対象として非学校日と学校日が子供の認知能力に与える影響を分析しており、学力格差は非学校日で特に生じ、それは家庭属性に影響されることを示している。この議論は学校教育が子供の格差是正機能を有していることを示唆しているが、Downey et al.(2004)*4) ここでの「目に見えない要因」による学力格差は、不平等に関わる社会学的な属性(社会的地位、民族、性別)等に因らない学力格差を指す。通例の固有要因(子供の“能力”)に起因する変動よりも更に一般的な指標となっている。*5) 両親の学歴や学校外での学習環境の状況等。では、更に上述の家庭属性等では説明できない「目に見えない要因*4」による学力格差についても、学校教育は是正効果を持つことを主張している。また、Marcotte(2007)は、米国メリーランド州において発生した豪雪による臨時休校が子供の学力に与える影響を分析しているが、豪雪の年の子供のテストスコアは、豪雪ではない年のスコアと比較して有意に悪化しており、特に数学でスコア悪化が著しいこと、学年が低いほどその影響が大きいことが示されている。Alexander et al.(2007)は、米国ボルチモア市の公立学校のデータを用いて高校進学時の学力を要因分解しているが、社会階層間の学歴格差は、高校入学までの夏季休暇における子供の学習の差異を強く反映していることを示しており、この差異が高校卒業率や大学進学率にも影響を及ぼすことを主張している。いずれの研究も、非学校日は子供が直面している環境*5によって学力格差が生じやすいこと、学校教育がこうした学力格差を是正する効果があることを示唆する研究となっている。また、日本においては、Kawaguchi(2016)が2002年の公立学校における土曜日の休日化に着目して、非学校日の増加が子供のパフォーマンスに与える影響を検証しており、土曜日の休日化は、家庭の社会経済的特性(世帯主の学歴、母親の就業、所得階層等)の格差を反映する形で、子供の学習時間・学力の格差を拡大させ得ることを示している。感染拡大下での休校措置の影響上記の議論は、休校の教育への影響を扱った先行研究であるが、2020年末にかけて公刊された感染拡大に図3 新規求人数・新規求職申込件数の動向新規求人数新規求職申込件数400,0001,100,0001,000,000900,000800,000700,000600,000500,0001.200.800.401.000.600.200.004月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月4月5月6月7月8月9月新規求人数(人)2019年2020年(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」より筆者作成。新規求人数対前年同月比300,000440,000420,000400,000380,000360,000340,000320,0001.200.800.401.000.600.200.004月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月4月5月6月7月8月9月新規求職申込件数(件)2019年2020年新規求職申込件数前年同月比69 ファイナンス 2021 Jan.連載日本経済を 考える

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