ファイナンス 2021年1月号 No.662
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て、オーナーとなった地権者は地代家賃を得るが、その水準は固定額ではなくテナントの業績によって変動する。テナントの売上歩合を反映したまちづくり会社のテナント料から元利返済金や管理経費等を控除した額がオーナーに還元される。オーナーはテナントとリスクを共有することになるので、個店ひいては商店街全体の売上向上に協力的にならざるをえない。地方都市で典型的だが、三セク主導の駅前再開発ビルの失敗例で、契約時に地代家賃を固定してしまっているケースを耳にする。決まった賃料を得られる条件で地権者は再開発ビルの空き室に関心を持たない。テナントが集まらず周辺相場が下がった末、地権者に応分の負担を求めても地代家賃の値下げ交渉に難渋する。そのうちビル経営が逆ザヤになり破たんしてしまうのだ。丸亀町が示唆する新しい中心地のあり方「住まう街」を目指しているのも丸亀町商店街の特長だ。かつて県都を代表する繁華街だった頃の、買い回り品や専門品へのこだわりがない。今も、三越と連携したテナントミックス策によって、三越に隣接するドーム広場近辺に一流ブランド店が集積しているが、そればかりでなく生活に必要な普段使いの品揃えを強化している。ベースにあるのは商店街の岩盤支持層たる最寄り住民を増やすことの重要性だ。かつて丸亀町商店街にはピーク時で約1,500人住んでいたという。それが75人まで落ち込んだ。そこで商店街に住む人を増やすため、再開発ビルの上をマンションにした。すでに竣工した4棟173戸は募集即完売。転入者の増加によって居住者数は約1,000人まで戻した。マンションは今後500戸程度まで増える見通しで、計画通り推移すれば居住者数は約2,000人となりピーク時を上回る。また、衣食住から「医食住」へのコンセプトの下、マンションの下層階に診療所を誘致した。自宅と同じ建物に医療機能があるのは頼もしい。自宅で継続的に在宅医療を受けるとすれば、診療所とマンション層は外来棟と入院病棟と同じ関係になる。医療機関から見れば病棟にかかる投資なしで総合病院を開院するようなもので経営効率が良い。高松市の場合、ターミナル駅、ビジネス街に移った街の中心が元の場所に戻ってきた。路線価上も地域一番の地位を奪回することができた。他方で郊外の大型ショッピングセンターの集客力も変わらない。中心とはいえ、丸亀町商店街はかつての一極集中時代とは性質が異なる。商店街の売場面積は約2万m2だが、商店街エリアに住む人を含め、売り場を維持するのに必要な採算ラインとして、徒歩10分圏内における居住人口を2万人と見込んでいる。まちなか居住と一体的に考えているのだ。ちなみにJR高徳線と高松琴平電鉄の路線で囲まれるエリアを街の外周とすると半径1kmの円とほぼ同じ。円の中心から徒歩約15分圏内に収まる。首都圏の鉄道の最寄り駅にしてひとつ分と元々コンパクトだ。奇しくも丸亀町商店街の目指す方向性は中心市街地の活性化と大きく違わない。城下町の時代は言うまでもなく、昭和に至っても、郊外住宅地がまだ発展していなかった頃は、今でいう中心市街地に多くの人が住んでいた。近い将来テレワークが進み、ネット通販で買い物をする世の中になればビジネス街も郊外大型店の意味も薄れてくる。ただでさえ高齢化社会に差し掛かる中、車社会に折り合いをつけ、持続可能性を意識した街づくりが求められている。その具体的な枠組みとして、丸亀町商店街は、コンパクトシティ時代にふさわしい新たな中心地のあり方を示している。プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。専門は地域経済・金融図5 丸亀町商店街(右手前に百十四銀行高松支店が見える)(出所)竹谷徹氏(百十四銀行)撮影 ファイナンス 2021 Jan.64路線価でひもとく街の歴史連載路線価でひもとく街の歴史

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