ファイナンス 2021年1月号 No.662
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コラム 経済トレンド79大臣官房総合政策課 深澤 瑛介/大井 克彰日本企業の研究開発と産学官連携について本稿では、日本企業の研究開発と産学官連携について考察を行った。全要素生産性(TFP)と企業の研究開発・日本の潜在成長率はバブルが崩壊した90年代から大きく低下している。潜在成長率は労働投入・資本投入・全要素生産性(TFP)の3要素の寄与度に分解でき、日本においては少子高齢化が進行し労働投入の寄与度は低下、もしくはマイナスになることが見込まれることから、持続的な経済成長を目指すうえで資本投入量の増加及びTFPの上昇が求められる(図表1)。・TFPの上昇は、資本・労働の物的な投入量の増加によらない付加価値の増加を表すが、その上昇に貢献する大きな要素が、高い付加価値を持つ新たな製品・サービスを創出するイノベーションであり、そのための企業の研究開発投資が重要な役割を果たす。しかし、欧米各国と比較すると、日本は研究開発費対GDP比が高い水準にあるものの(図表2)、新たな製品・サービスを生み出すイノベーションの実現企業の割合は低く(図表3)、研究開発と新たな付加価値の創出との結びつきが弱い。図表1 潜在成長率と寄与度分解推移802015100500959085(年)6.05.04.03.02.01.00.0▲1.0▲2.0(%)資本投入量(寄与度)全要素生産性(TFP)(寄与度)労働投入量(寄与度)潜在成長率図表2 企業の研究開発費対GDP比の推移000204060810121416183.02.01.00.0(%)(年)日米OECD平均英独図表3 プロダクト・イノベーション実現企業の割合※プロダクト・イノベーションはその企業において「新しいまたは大幅 に改善した製品・サービスを市場に導入したか」の有無をさす。19.334.432.139.713.929.130.326.49.920.513.416.04.915.213.55.6非製造業0.045.040.035.030.025.020.015.010.05.0日米英独日米英独製造業(%)プロダクト・イノベーション市場にとって新しいプロダクト・イノベーション(出典)内閣府「月例経済報告」、OECD.stat、OECD「Business innovation statistics and indicators」日本企業の研究開発とイノベーション・一般的に、研究開発能力は既存企業のほうが新参企業よりも上であるが、新旧製品がシェアの共食いを起こす可能性が高い場合には、既存企業は、新たな製品・サービスを創出する破壊的なイノベーションに対するモチベーションを強く持たないことが指摘されている。さらに、日本においては、研究開発費の大半が大企業によるものであり(図表4)、終身雇用を核とした日本の雇用システムの影響もあって、破壊的なイノベーションを起こすことに意欲的なスタートアップ企業が育ちにくい環境にある。・日本企業においては、「競合他社との差別化」や、「既存の製品・サービスの機能や性能の向上」といった、プロセスのイノベーションのために研究開発を行う傾向が強い(図表5)。その結果、日本企業は、新たな付加価値を創出する破壊的なイノベーションに必要な研究能力や人員の欠如、また新しい技術・知見獲得の投資・機会が不足しがちとなるように見受けられる(図表6)。図表4 日本の産業部門の企業規模別研究費推移080910111213141516171819(年)16.014.012.010.08.06.04.02.00.0(兆円)100億円以上1億円~10億円未満10億円~100億円未満1000万円~1億円未満図表5 研究開発を実施する理由に「該当する」と回答した割合45.152.454.654.856.162.467.070.172.679.30.050.0100.0(%)※最大3項目まで複数回答可。経営戦略上の目標を達成するため競合企業に対する優位性を確保するため自社の技術力を高めるため既存の製品・サービスの機能や性能の向上のため将来的な新製品・新サービスの可能性を広げるため具体的な新製品・新サービスの実現のためコストダウンや価格競争に対応するため技術変化に対応するため新市場への進出や新市場の開拓のため顧客ニーズに対応するため図表6 日本の研究開発及びイノベーション創出の阻害要因(複数回答)64108128134010050150新しい技術・知見獲得の機会不足必要な研究能力と既存人員のミスマッチ新技術への投資不足研究開発での新技術導入の遅れ(出典)総務省「科学技術研究調査」、文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査報告2019」、NEDO「オープンイノベーション白書」59 ファイナンス 2021 Jan.連載経済 トレンド

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