ファイナンス 2021年1月号 No.662
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同記事には、イギリスでは、Year1(小学1年生)すべての子供たちは、10年前よりもフォニックステスト(Phonics:綴り字と発音の規則性を明示する単語の学習法)*33でより良い学びを得ている、とあるとおり、入学当初は先生の言う指示の理解もよくわからない子たちがメキメキと読んで喋れるようになっている背景には、学校側のカリキュラムとそれを補わせる家庭の宿題の影響が大きい(ただし宿題を完遂する親子は2割ほどでほぼ手付かずの親子が多数派、クラス内での学力差にはバラつきが見られる)と考えています。写真7-3  そもそも見にくい時間割。縦軸が曜日で、横軸が科目の時系列。毎日フォニックスはある(2) 1年6学期、定期テストはなく週次で進捗を見る英国の学校は1年で6学期(6 terms)に分かれ、夏休み、冬休みと、10月、2月、4月に1週刊ずつハーフタームと呼ばれる休みがあります。そして中間テストや期末テストのような定期テストがない。その代わり上述のとおり宿題が多くなっています。約3,700人を対象としたある調査では、大学受験資格を持っていない親の30%がロックダウン中に在宅学習を手伝って1日に少なくとも2時間を費やした一*33) フォニックス(綴り字と発音の規則性)とは、例えば、「F」=「ッフッ」、「igh」=「ァィ」「t」=「ットゥッ」のように綴りと発音の規則性をせる英語学習法でネイティブの子もここ10数年は行っている手法なのだそう。これにより「Fight」という単語を絵本で初めて見ても「ファイットゥッ」というように発音し、読み進められる(単語の意味は絵本の絵でなんとなく覚えたり、大人が都度フォローする)。 同じ「ァィ」という発音でも1文字なら「i」2文字なら「ie」、3文字ながら「igh」だねなどとセットで先生から学び、長期休暇では宿題として紙束で渡され、家でも読み上げて復習する。なお絵本は毎日1冊渡されるため1年で100冊ほど読むことになる(真面目に宿題をした場合)*34) 文部科学省によると、欧米との比較でも日本のような定期テストがある国は少ないらしい。最終的に大学入学試験に受かるところで帳尻があえばよいのかもしれない。中高校生相当の年次では解答に至る考えを論理的に説明する訓練を重ねていると聞く。また近年は日本でも、丸暗記によらない週次の進捗確認を重視する動きが一部の公立で出てきたようだ。11月には「中学の定期テスト改革 ノート持ち込み可、暗記減らす」と題した記事で特集されていた。 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66265510W0A111C2KNTP00/ 日本経済新聞2020年11月19日*35) https://www.gov.uk/government/news/spending-round-2019-what-you-need-to-know?utm_source=a4c284d3-88c2-41cd-a6ec-acb26fc8dd8b&utm_medium=email&utm_campaign=govuk-notications&utm_content=immediate方で、その割合は、大学の学位を持つ親の28%よりも少し高いだけで大きな差がないことがわかった(両親は誇張して調査に回答した可能性もあるが)。英国の2人の社会学者Sait Bayrakdar氏とAyse Guveli氏による別の研究では、子どもたちがどれだけ宿題をしたかに最も大きな影響を与えたパラメータのは、両親の教育水準(大卒か否か)ではなく、そもそも学校がどれだけの宿題を割り当てたかであることを発見したとある。宿題が多いことには一定の合理性があるのかもしれません*34。余談ですが、英国公務員らしく回転扉のように、先生方はよく入れ替わります。12月の冬休み前には、半数ほどの先生が(求めるキャリアに近いポスト等で)転校するお知らせが保護者に届きます。直近7月の夏休み前には、校長先生の交代と同時に十数名いた先生方がまるっと総入れ替え(でも熱意あるいい人)で驚きました。1年生当時の担任の先生は、夫がLSEの研究者で、ザンビアで数か月滞在後、今はニュージーランドに転じて教師をしていると聞きます(コロナ下でも凄い移動距離!)。(3) カリキュラムに各校の裁量医療と並んで教育への予算は、英国民の注目度も高いです。2019年のSpending Round*35では、総額だけではなく、すべての子どもに素晴らしい教育を提供するために、学校に対して資金を供給。この結果、2020-21年までにすべての中学校に生徒1人あたり最低5,000ポンド、2021-22年までにすべての小学校に生徒1人あたり最低4,000ポンドが割り当てられることとなる、などの国民向けのわかりやすいブリーフィングをしています。こうして子供の人数に応じてある資金をどのように使うかは学校の裁量であり、民間のNPO団体と上手く連携して、出張教室・出張先生を呼び込むなどをしている。私の見た範囲では、バイオ55 ファイナンス 2021 Jan.連載海外 ウォッチャー

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