ファイナンス 2021年1月号 No.662
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ラ優秀なスタートアップ支援のみならず、地域コミュニティにおける(例えば飲食サービス業などの)小さな創業も意識しています。これは、大企業における雇用の余力が落ちてきている中、普通の人でもきちんと稼いでいける仕組みの構築を国として後押ししていく必要があるということなのではないかと思います。国のGDPをどう成長させるかよりも、個人のWellBeing、企業向け支援もさることながら雇用創出そのもの、個人の創業支援にもフォーカスしていく、そんな方向性が、今後の他国の政府においても出てくるのではないでしょうか。(1) 民間の有力VCと連携した起業家ビザ*24、海外拠点も使う英政府の無料相談所これは英DIT(国際貿易省)の所管ですが、英国における有力なVC(ベンチャーキャピタル)と連携して、彼らも目利きにかなって5万ポンド以上の出資を受けた者に英国入国のためのTier 1(起業家)ビザ申請をサポートするという、特定のシード・コンペを承認しています。海外からの呼び込みも含めて、英国はG20の中でも法人税率が最も低い国の一つで、48時間以内に会社を登録することができ、労働力はヨーロッパで2番目に大きい等の特徴を謳いつつ、もう340社を誘致支援した、1,000名以上の雇用創出効果があったというDITが相当親身になって事業者の英国進出相談に乗ります。DITの中にはヘルスケアテックやフィンテック(金融テクノロジー)など産業毎の担当や国別担当がいてマーケティングと支援に熱心。日本においても、駐日在英国大使館の中にFCDO(外務開発省)からのスタッフのほかDIT(国際貿易省)のスタッフが常駐しており、テクノロジー企業の英国進出については無料でかなり密な相談に乗ってくれる仕組みがあり、ここで支援を受けたという企業の方にロンドンでお目に掛かることもたびたびありました。省庁横断で在外公館の機能をも使って英国への呼び込みを強化しているよい事例だなと感じます。そうした動きを少しでもトレースできないかと、英国政府のこ*24) 国際貿易省の起業家支援 https://www.gov.uk/government/publications/entrepreneurs-setting-up-in-the-uk/entrepreneurs-setting-up-in-the-uk*25) 英国の先端的金融テクノロジー(フィンテック)企業・英国政府向け 日本の新事業促進政策セミナー及び英日投資連携ネットワーキング~(英国)開催概要、令和元年度外務省経済局グッドプラクティスhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/les/100005547.pdf*26) https://www.gov.uk/government/news/more-than-19000-jobs-created-by-kickstart-scheme-so-farうした方々や英国の金融テクノロジー企業(日本に関心を持ちそうな社)を招いて当館にて、英国の先端的金融テクノロジー(フィンテック)企業・英国政府向け 日本の新事業促進政策セミナー及び英日投資連携ネットワーキング~(英国)*25を、企画・運営したところ、大変好評で、強い需要を感じることができました。この取り組みは、大使館としてこれまでなかった接点を多く獲得した点などで、2019年の外務省経済局グッドプラクティス表彰を受賞しています。(2) 財務省による若者(現場系)雇用支援や、地域コミュニティ創業支援英国政府が力を入れるのはスタートアップ支援ばかりではありません、こうしてできあがる新たな産業については創業する人たちばかりではなく、雇用されて働く若手も大変重要です。また、大卒ホワイトカラーのみならず、建築や製造業をはじめとした現場系の職業につく若手の職業機会をつくることも重要で、英国財務省が11月12日にリリースしていたのは若手雇用支援のキックスタートスキーム*26です。これは、16歳から24歳の若者を対象に、29人以下の求人を提供する小規模企業向けの雇用支援策。政府は、年齢に応じた全国最低賃金、国民保険料、週25時間分の年金保険料を100%負担(雇用主へ支払い)。6ヶ月の間、若者は定期的な賃金を得ながら、職場での自信と経験を積むことができるもの。キックスタートに参加した若者は、就職支援や訓練を追加で受けることができ、雇用主はこの訓練やその他入社費用を賄うために1,500ポンドを受け取ることができる。このスキームでは、英国全土の雇用主から4,359件の応募があり、技術、建設、通信、フィットネス、メディアなど幅広い分野の仕事が募集されていて開始から1週間で19,000人以上の雇用を支援できたというさい先の良いスタートを切っている政策です。また、これまでのように都会の大企業中心に十分な雇用を生み出せない中、地域コミュニティにおける創業も重要視されています。例えば、ロンドン南部には51 ファイナンス 2021 Jan.連載海外 ウォッチャー

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