ファイナンス 2021年1月号 No.662
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財なども法案が対象とする資産になる。●取得株式数の制限や情報へのアクセスの制限、特定の場所や業務へのアクセスの制限などに踏み切ることがある。制裁は罰金(世界の売上高の最大5%か1千万ポンドのうち大きい方)や最大5年の禁固刑。というものでしたが、「どのようなタイプの取引に通知を義務づけるか」という結構コアなところを、今後のパブリック・コメントを経て決めていくのだと公表していました*12。一応安全保障の目的でやっていることだけど、こういうコアに見えるところも官民の対話で調整していくことがあるのかと感慨深く感じられました。また、こうした政府による変更がある場合、日本では大事のように報じられることも少なくないものの、当地の反応は冷静沈着といった様子です。報道で大きく長期間取り上げられることもなく、経済金融を所掌とする在ロンドンの外交官の知人に聞いた感触でも「本国(EU代表部)は見ているだろうが、心配をする話ではないと考えている。私としても何か情報収集に動こうという位置付けではない。(企業や投資家にとって)政府へ通知する手間は少し増えるだろうが、実際に政府に干渉され止められてしまう案件はごく僅かだからだ。」、「本国(カナダ)は年金基金を通じて英国に多額の投資をして存在感を示してきているため、実はこの投資スクリーニングについての話はだいぶ前から聞いていた。心配をする話ではないと考えている。投資と国家安全保障のバランスを取る必要性は私たちの視点からも理解できる。」などという感触でした。(2)デジタル課税思い返すと、デジタル課税の線引きも素晴らしく、2018年秋季予算の公表時に「デジタル課税を英国でやる」と決まってからの動きが早かったです。たしか年明けた2019年冬頃に、縁あって英財務省の税担当*12) 国家安全保障・投資法案の政府発表 https://www.gov.uk/government/news/new-powers-to-protect-uk-from-malicious-investment-and-strengthen-economic-resilience*13) 2018年予算公表時のデジタルサービス課税案 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/le/752172/DST_web.pdf*14) https://www.ocado.com/webshop/startWebshop.do Ocadoとは2000年英国創業のオンライン食材小売大手、ウエイトローズなど他社スーパー製品もまとめて冷蔵・冷凍で個別宅配送可。英国なのに、きちんと時間指定で届くのが凄い。)*15) 2020年3月公表(4月施行目前)でのデジタルサービス課税案 https://www.gov.uk/government/publications/introduction-of-the-digital-services-tax/digital-services-tax#detailed-proposal*16) 事業内容はDSTの要件に直接該当しないものの、収益規模の一例として、英国で規模の大きいデジタルバンクでの大手で著名なMonzo社でも年間の収益は6-7億ポンドほどである。このことから多くのテックスタートアップ企業は(収益非開示先が多いものの)これ以下の収益水準でありDSTの対象から外れていると推察している。最近のデジタル課税担当いわく、(パブコメの意見、収益水準の線引きの直接の因果関係について言及はないものの)、DSTに関してはこれまで2回もパブリックコメントを実施して、業界の意見を聞いて反映してきているのでもう反発はなく調整済(と認識している)とのことであった。と話す機会があった際に、尋ねてみたことがあります。当方 『英国のデジタルサービス課税(以下、DSTという)、って、まぁ対象として考えている事業は書いているとおり、(Googleとかの)サーチエンジン、(Facebookとかの)ソーシャルメディアサービス、(AmazonやAppleとかの)オンラインマーケットプレイスとか*13、いわゆる大手テックファームを対象としたい話であって、英国内で成長中のテクノロジースタートアップとかから取りたいわけではないよね』先方「そうだね」当方「私は結構、英オカド*14も使っているのだけど、こうした英小売業もマーケットプレイスに当たるかわからないが、ここからも多分取りたいわけではないよね。」先方「わかる。そこも線を引かないといけないと思う。」当方「あくまで私見だけど、DSTの対象として考えられるのは、外資の大手テックファームとかせいぜい30社とかそれくらい?」先方「まぁ、そんな感じになるだろうね。多くはないよ。いずれにしてもConsulting(いわゆるパブリック・コメント)してからだ。今はなんともわからないよ。」と。こういって、2020年3月に公表された草案*15は、いよいよ4月1日から実施しますということとともに、DST(デジタルサービス税)は、英国のユーザーにソーシャルメディア、検索エンジン、オンラインマーケットプレイスを提供しているグループが、「グローバル全体での収益が5億ポンドを超え、うち2,500万ポンド以上が英国のユーザーからの収益である場合」に、グループの収益がこれらの閾値を超えた場合、英国のユーザーからの収益は2%の税率でDSTが課税されることになっていました。これは結果として、英国のテックスタートアップの殆どが当てはまらない収益水準の線引き*16。官民でき47 ファイナンス 2021 Jan.連載海外 ウォッチャー

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