ファイナンス 2021年1月号 No.662
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すこと幅広い中、どうやって資源の最適化をしていくか、その手法としてのDX(デジタライゼーション)は、無視して通れる話ではないのではないか、と考えています。(1) 英王室領ジャージー政府の象徴的な例:小国の生き残り策、資源の最適化、歳出抑制、GDPよりWell-Beingロンドンから南に飛行機で70分ほど飛んだところに、英王室領ジャージー政府(ジャージー代官管轄区)というところがあります。人口はわずか10万人。温暖で風光明媚、自然豊か、都市国家っぽさはまるでない。しかし一人あたりGDPは6万ポンド超、イギリスや日本の1.5倍、シンガポールや米国に比肩する水準、経済的に成功をおさめている国・地域です。女王を君主として外交や防衛を英国に頼るものの、英国の国内法上、連合王国(United Kingdom)には含まれない。独自の議会と政府を持ち、内政に関して英国議会の支配を受けない。独自の法を制定し、税制も独自、海外領土や植民地と異なり、高度の自治権を有している。EUにも加盟していない。ロンドンにいわゆる大使館機能(ジャージー政府ロンドン事務所、8名ほど)を置いていて、ほぼ独立国家という状況です。写真2-1 ジャージー島、セントブリレーズベイの光景ここの渉外担当ブラッドリーさん、在英企業の友人をきっかけとして知り合い、DX(デジタライゼーション)の話をした際に意気投合、うちはまさに危機感もってそういう点に取り組んでいる、観光でもいいところだからぜひ来てくれ、政府関係者も紹介するよ。ということで自腹で休暇をとって、ものは試しと行ってみたのが始まりでした(2019年9月)。元々は一次産業が強く、日本でも有名な濃いジャージー牛乳の発祥地、世界中のジャージー牛の血統は元をたどると全てこのジャージー島にあるのだそう。まずバター、オイスター(牡蠣)、そしてジャガイモを筆頭とした野菜類のEU圏への輸出(今もロンドンの高級スーパー・ウェイトローズで見かけます)が昔から今でも主力の一つです。数十年前に、金融・資産運用業を国の産業の軸にしようと、法人税を下げて(法人税0パーセント、銀行・資産運用業は10%)、政府担当者自ら、ロンドンの金融街に営業をかけて銀行・資産運用業を三十数社誘致してきました。その結果、名だたる機関はだいたい拠点があります。しかしながら、英国からの居住には制限を設けました。10年以上ジャージー島で生活した経験がないと土地建物を買えないようにしたのです。するとシンガポールのような都市国家の発展とは対照的に、自然を非常に多く残しながら、ロンドンで財をなした富裕層(主に金融関係者)の老後の住まいとして、ゆっくりとしかしGDPを大きく伸ばしながら発展をしてきたのです。しかし近年は新たな問題が発生しています、若者の流入は少なく、富裕層を審査して受け入れてきた背景から、英国本土以上に、高齢化は進み、地縁・血縁のない方々も少なくないことから高齢者の孤独が社会問題化してきました。当然、島に病院はありますが、各個人宅で発生する体調不良を早期発見するほどのリソースはなく、運ばれてきたときには重症化しており医療費も増大傾向に歯止めが効かない、少子高齢化の進むどこかの国でも聞いたことのある社会課題です。ここにも素早く取り組んだジャージー政府、組み合わせたのは「スタートアップ」、「郵便局員」と「病院」でした。地域ケアにまわるケアワーカーさんのリソースは全く足りない。しかし郵便配達員は毎日のように各戸を訪問している、それならば!と。43 ファイナンス 2021 Jan.連載海外 ウォッチャー

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