ファイナンス 2021年1月号 No.662
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サービスのアルゴリズムをこちらに開示してくださいね」と言われてしまう。テック企業側としては「え、いやいや、それは当社の事業のコアであり、そうやすやすと開示はできないのですけど・・・」と思いますよね。EUを離脱したイギリスと日本との間で近々結ばれる、経済連携協定によってそのような心配がなくなるのです。日本とイギリスの経済連携協定のルール分野の中で、ソースコード開示要求の禁止の対象にアルゴリズムを追加、とされているのが、日本とEUの間での経済連携協定との違いであり、テック企業が英日間で進出しやすくなる、ということに繋がっていきます。(2) なぜ、英国とEUでデジタル&データの扱いが異なってしまったのだろう日本とEUでの経済連携協定では、ブレクジット前の締結を焦るあまり、突っ込んだデジタル規定や国家訴訟規定が外されています。日本側は入れたかったんですけど、欧州へのモノの輸出(特に自動車部品)を最優先した感じです。(というのも、TPPにタイが入れば、日EU EPAとの同等性原則により、タイから無税で欧州へ自動車部品を出せるようになるからです。ここに日本政府がタイをTPPに入れたい思惑も透けて見えるなと思います。それはさておき)一方、EUはフランスを筆頭に大手テック企業のGAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)やマイクロソフトに比肩するプラットフォーマーが国内に居ないので、なるべく彼らをEU内需市場から排除したい論理があります。最近、米欧データ移転に対しブラッセル(ベルギー、EUの本拠地)が訴訟を起こしたり、アイルランド、アムステルダム(オランダ)、エストニアの租税協定に対し噛みついているのはこのためです。また、直近12月10日には、グーグル(Google)が、フランスのデータ保護機関CNIL(情報処理・自由全国委員会)から、1億ユーロ(約120億円)の制裁金(米国Googleと欧州Googleで6対4の割合で支*3) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10BHQ0Q0A211C2000000?unlock=1払)を科されました*3。これはデータ保護関連の罰金で過去最高額を更新、なかば懲罰的とも言えます。欧州Google本社がウェブサイトの閲覧履歴データであるCookie(クッキー)の利用規則の違反をしたと主張する、フランスのCNILにはEU内のGoogleに制裁を科す権利はないと主張したものの、当局はこれを退けたとのこと。この一件からも、EU及びフランスのGAFA嫌い(プラットフォーマーを排除したい思考)が透けて見えます。(3)英国に流入するテック企業大手の動き今後、英国が12月31日にEU離脱を果たせば(この原稿を書いている時点ではわかっていません)、相当程度に、イギリスはデジタル規則を緩めてくるでしょう。それを見越しての動きかはわかりませんが、(ロンドンにおけるパリやブラッセルとの高速列車の発車地点である)キングスクロス駅の北側に、Googleが4000人入る新本社を建設しています。これまで法人税の安さ(アイルランドの法人税はR&D拠点を置けば6.25%程度)によって、欧州本社を置いていたダブリンやアムステルダムから、GAFAやテック企業は本社をイギリスに移していくのではないかと見ています。英米EPAもおそらくデジタル協定においては日英EPAと同程度でしょうから、これからグローバル展開していく企業も、既存で英国にいる日系企業にとっても、データ管理は、EU側ではなく、5EYES(英米加豪NZ)側に入った方が楽な気もします。2. 【デジタルってそんなに大事? 資源の最適化、英国の地方発の例】本稿をお読みいただいている方の中には、デジタルってそんなに大事なことか?民間の話で政府とは関係ないのでは?と思われる読者の方も多いかと思います。私見では、(日本や英国をはじめどの国でも似ています)変化の大きい情勢下、人数も給与も増やせない行政機構の資源配分には限界があり、国民ひとりひとりの心身健康のケアから経済対策まで、やることな ファイナンス 2021 Jan.42海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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