ファイナンス 2021年1月号 No.662
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知りたいということで、博報堂の会長をしておられた磯邊律夫さんからご紹介いただいて、お話を伺ったのが最初である。各国間で利害が厳しく対立する世界で、各国がダブル・スタンダードを駆使して国益を追求し自国の安全と平和の維持を図るのが外交であるとすれば、国際会議の前には他国の本音が何かをつかむ情報戦略が極めて重要となる。そのために、日本以外の各国(かつての大戦の敗戦国であるドイツやイタリアも含む)は、強力な情報機関を持っている。米国の情報機関であるCIA(その前身のOSS(戦略情報局))には、戦後の全米歴史学界の会長となった人物のうち6名、経済学会会長のうち5名(2名のノーベル経済学賞の受賞者を含む)が関与している*26。ところが、ダブル・スタンダードを当然とする国際関係の厳しさが理解されていない我が国においては情報機関不要論さえ根強いのが現状である。憲法9条の下に戦争を放棄している我が国は、誤解による摩擦から戦争に到るようなことが生じないように、より強力な諜報機関が必要なはずなのにである。平和を求めるからこそ強力な諜報機関が必要ということについては、国連に関しての春具氏の以下の指摘が興味深い。「国際機関は平和組織だから諜報活動のようなインテリジェンスは必要はないということはありません。政策決定のための情報収集、その分析をおろそかにしては国家同様、組織も成り立たない(中略)。はやい話がカトリックの総本山であるヴァチカンの情報収集力はずば抜けて凄い。いつか南米のカトリックの坊さんとラテン・アメリカについて話したことがありますが、彼の南米のゲリラ、たとえばメキシコのサバティスタ、ペルーのトパク・アマルなどが最近はどこで何をしている、などと仔細かつ正確に話してくれたのには魂消ました*27」。国連の情報重視の背景には、これまで国連がその活動で多くの犠牲者を出している現実がある。「1945年の創立以来、(中略)その最初のケースは、1948年のパレスチナ戦争の際に国連の調停官として赴任していたスエーデンのベルナドッテ伯*26) 米国では、機密費に基づく「非合法」な情報収集活動(例えば、国による産業スパイともいえるエシュロンによる世界的な電子情報の把握)の実態等については、上院の特別な秘密会(一生涯厳格な守秘義務を課せられる)が報告を受けてチェックを行っている。*27) Japan Mail MediaNo.181 Friday Edition2002.8.30*28) Japan Mail Media No.233 Extra-Edition2003.8.27*29) 2008年に朝日新聞出版から出された[岡本行夫 現場主義を貫いた外交官]が、2020年12月に文庫版として出版されている。同書(p337)で、岡本さんは「お題目だけ唱えて、泥仕事とリスクは全て他の国に押し付ける。(中略)いつからこんな国になっちゃったんでしょうか」と述べて、日本の現状を憂いていた。爵が暗殺された事件であります。実行したのはイスラエルの秘密警察で、イスラエルはのちに謝罪し、賠償に応じて決着をみた。(中略)1993年にクメール・ルージュによる攻撃で6人死亡(カンボジア)、PKO部隊が襲われて25人が死亡(ソマリア)、1994年にはローカル・オフィスの現地職員の60人あまりが殺傷(ルワンダ)、(中略)……と書きつづけるのが嫌になるくらい、多くの犠牲者がでています*28」というのである。なお、外務省の関係では、2020年の春に新型コロナウィルスで亡くなられた岡本行夫さんからも長年にわたりご指導いただいた。岡本さんとは、退官後、三菱マテリアルで社外取締役をご一緒させていただいた。三菱マテリアルは、高島炭鉱における戦時中の強制労働問題を抱えており、岡本さんからは、実に様々な話をうかがった。亡くなられた時には、日米の若者へのメッセージを込めた自伝を執筆中だった*29。ご冥福をお祈りしたい。39 ファイナンス 2021 Jan.危機対応と財政(番外編-1)SPOT

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