ファイナンス 2021年1月号 No.662
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の中には金融機関への不満を募らせているところがあります。持続可能な開発目標(SDGs)の8.10にある「すべての人々に金融取引へのアクセス拡大を促進する」こととは、金融排除を無くすことで、リレバンとも同じ考え方と言えます(図2)。金融機関にとって、SDGsは環境私募債や冠付きの金融商品を販売するといった矮小な話ではなく、本業に通じるもののはずです。図2:SDGsの目標8.10(全ての人々の金融サービスへのアクセス)Copyright (C) 2011 一般社団法人地域の魅力研究所All Rights Reserved.1.地域金融・中小企業金融のポイント⑨地域金融機関にとってのSDGs/ESG(1/3)22‣年々注目が高まってきているSDGs(持続可能な開発目標)では17の目標が掲げられているが、地域金融機関において環境私募債や冠付きの金融商品を販売するという矮小な話ではない。地域金融機関におけるSDGsとは目標8のターゲット10に尽きる!‣『ESG金融は社会貢献活動ではなく、本業に通じるものである。SDGsの中では目標8.10「国内の金融機関の能力を強化し、すべての人々の金融取引、保険及び金融サービスへのアクセス拡大を促進する」に最もよく当てはまり、リレーションシップバンキングとも同じ考え方である。』とは、ESG金融懇談会(2018年5月)における京都信用金庫の増田理事長(当時)の発言。‣「すべての人々に金融取引へのアクセス拡大を促進する」こととは、金融排除を無くすことに他ならない。将にリレバンに拠って成し得るものであり、それをビジネスモデルの根幹に据えている地域金融機関にとっては生き様そのものと言える。‣地域金融機関の中には「金融サービスへのアクセスを促進」を単なる利便性の向上と曲解し、以下のようなアピールをしているところも少なからず見受けられるが以っての外。上述の増田理事長の高い志とは雲泥の差。10国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。当行は新たなキャッシュレス決済に参画しました!当行はオープンAPIを使ったアプリを開発しました!当行はSDGsの目標8.10に取り組んでいます!もはや意味不明・・・―リレバンこそがSDGsであるとのご説明は印象に残るのですが、他方で、金融機関によるリレバンの取組は、PBR(株価純資産比率)などの投資家による企業価値の評価に結び付いていないのが現状でもあります。ESG投資への注目が高まっている中、リレバンの重要性を投資家にも訴求していくには、どういった試みが考えられますか。リレバンの取組状況について何らかの方法で、定量的に評価することは考えられないでしょうか。多胡 年金や保険等の機関投資家も、原資は各地方の企業や個人です。地域の個々の法人や個人がなくなったら年金も保険も成り立たないという意識が残念ながらほとんどの機関投資家には希薄です。多くの機関投資家はスチュワードシップコードを遵守していますが、同様の精神でリレバンとそうでない銀行の株価を分けて考えて欲しいと思います。他方で、機関投資家側もどこがリレバンをやっているかもわからず、調べる時間もありません。第三者機関のようなものを設立するという議論は必ずしも進んでいません。―従来から中小企業を中心に現預金や内部留保の増加傾向が指摘されてきましたが、コロナ禍で、貸し出し増に加えて、企業の現預金の増加が加速しています(4-6月法人企業統計では、短期借入金:前年比+20.8%(1995 年以降最大の伸び)、現金・預金:+11.2%)。企業は手元流動性を増加させていることについては、どのように考えますか。地域の金融機能の観点から課題はあるのでしょうか。多胡 本来、現預金保有には適正なレベルがあります。過剰な現預金の積み増しは企業の金融機関への不信感の表れととることができます。融資先の内部留保率はリレバンの取組の指標になるかもしれませんね。―地域金融機関の経営方針が、地域社会に与える影響は大きいものがあると思います。先生は、以前のご著書(『地域金融 最後の戦い』)のなかで、地域金融機関は地元の経済界向けに積極的にIRをして、地元企業を株主にすることを提言されていました。また、識者の中には、地銀を信用金庫・信用組合のような非上場の形態にすることも選択肢に挙げられる方もいらっしゃいます。地域金融機関の所有形態についてはどのように考えますか。多胡 地元企業に対するIRは積極的に進めるべきです。さらに進んで、非上場の方が良いとも考えています。信用金庫の資本構造は、基本的には地元企業による出資と内部留保です。地銀は基本的に上場していま図1:「リレーショナルシップ・バンキング」と「トランザクション・バンキング」(多胡先生提供)Copyright (C) 2011 一般社団法人地域の魅力研究所All Rights Reserved.1.地域金融・中小企業金融のポイント②「リレーションシップバンキング」と「トランザクションバンキング」7‣2003年6月30日には、預金取扱金融機関の事務ガイドラインが一部変更。「金融機関が、リレーションシップバンキングの機能の一環として行うコンサルティング業務等取引先への支援業務が付随業務に該当することを明確化するとともに、その際、中小企業等顧客保護や法令等遵守の観点から図るべき態勢整備の内容を規定した」リレーションシップバンキング(リレバン)金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデルまた、資金の用立てすることに留まらず、ヒト、情報、ネットワークを駆使することで事業そのものを支援し、事業者の価値向上を目指すビジネスモデルトランクションバンキング(トラバン)個々の取引との採算性を重視する銀行経営手法であり、貸出に当たっては財務諸表や客観的に算出されるクレジットスコアといった定量的な指標を重視するもの一般に、資金の貸し手は借り手の信用リスクに関する情報を当初十分に有していない(情報の非対称性)ことから、貸出にあたっては継続的なモニタリング等のコスト(エージェンシーコスト)を要するが、リレーションシップバンキングにおいては、貸し手は長期的に継続する関係に基き借り手の経営能力や事業の成長性など定量化が困難な信用情報を蓄積することが可能であり、加えて、借り手は親密な信頼関係を有する貸し手に対しては一般に開示したくない情報についても提供しやすいと考えられる。この結果、リレーションシップバンキングにおいては、借り手の信用情報がより多く得られ、エージェンシーコストの軽減が可能となるものとされる。 ファイナンス 2021 Jan.24財務省再生プロジェクト 部局横断的勉強会(1)SPOT

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