ファイナンス 2021年1月号 No.662
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1新型コロナウイルス感染症と対峙する財政運営まず、新型コロナをめぐるこれまでの政府の対応を振り返った後、今後の対応の考え方が述べられている。政府は、国民の生命と経済社会を守り、不安を解消していくことを最優先とし、厳しい財政状況の中、事業規模総額で230兆円を超える対応を行うため2度の大規模な補正予算を編成した(当時)。これらの補正予算は、緊急事態宣言の下、外出自粛等による感染拡大防止を優先し経済が大きく落ち込む中での、社会経済活動再開までの「つなぎ」的な措置としての意味合いが大きい。このような巨額の対策が経済や国民の暮らしを支える役割を果たしたと考えられる一方、その対応の効果については、政府において事後的に検証すること等が重要であると指摘されている。今後の新型コロナへの対応については、引き続き、補正予算をしっかりと執行していくとともに、新型コロナウイルス感染症対策予備費の活用を含め、万全を期す必要がある。その上で、感染状況や経済の動向も十分に踏まえつつであるが、社会経済活動のレベルが引き上がっていく中で、単なる給付金や一律の「つなぎ」的な措置といった支援から、ウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や生産性の向上に前向きに取り組む主体の支援へと軸足を移していき、未来に向けた日本経済の成長力の強化につなげていくべきであるとしている。2日本経済・財政が抱える構造的な課題(1)日本経済が抱える構造的な課題ウィズコロナ・ポストコロナにおいて、日本経済にどのような構造変化が生じ、財政はどのように対応すべきか、個別の施策の具体的な改善の方策を議論する前提として、新型コロナ流行前から日本経済が抱えている構造的な課題が述べられている。まず、経済成長の要素である労働投入、資本投入、全要素生産性について、日本と他の先進国を比較すると、日本の構造的特徴として労働投入や資本投入の低迷がみられ、その結果、潜在成長率は1990年代以降大幅に下落している。今後、ウィズコロナ・ポストコロナを見据えた規制改革・構造改革等を通じて潜在成長率を高めていく取組を抜本的に強化しなければ、持続的な経済成長率の向上は望めないとしている。(2)日本経済の生産性を高めるための取組新型コロナで浮き彫りになったデジタル化・DXの遅れや中長期的な労働人口の減少を踏まえると、デジタル化・DXや設備投資を進めることにより労働生産性を高めていく努力が不可欠であり、ウィズコロナ・ポストコロナの状況下において、安全・安心といった新たな価値を付加したサービスに相応の対価を求めるなど、特にサービス産業を中心に、分子である付加価値を増加させることで、労働生産性の向上を経済成長につなげていく取組も不可欠としている。産業構造への転換等に向け、規制・制度改革や企業慣行の見直し等も必要であり、財政支出を増やせば持続的な経済成長が起きるといった単純な話ではなく、財政支出が必要な場合には、真に経済の自律的成長に寄与する効果的・効率的な支出となるよう、選択と集中・ワイズスペンディングの考え方を徹底すべきであると強く求めている。続けて、財政に関し、新型コロナ流行前からの構造的課題である(3)から(5)の3点について説明されている。(3) 社会保障制度の受益(給付)と負担のアンバランス特例公債の発行から脱却した平成2年度と比べると、フローの財政収支の面でも、ストックの債務残高の面でも、財政悪化の最大の要因は、社会保障給付における受益(給付)と負担のアンバランスである。今後、令和4年度には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に移行し始め、社会保障関係費の急増が見込まれる。社会保障制度の持続可能性を高め、将来に不安を感じている現役世代への負担のしわ寄せを避け、現役世代が希望を持てるようにしていくことで、消費の促進にもつながるとの指摘がなされている。(4) 新型コロナへの対応に伴う国債発行を取り巻く現状2度の補正予算に伴う見直し後の国債発行計画では、市場のニーズ等を踏まえ、特にTB(割引短期国債)19 ファイナンス 2021 Jan.SPOT

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