ファイナンス 2020年12月号 No.661
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うにしてありました。こうした事前の準備態勢が大事なのだと思います。そして、ドローンやヘリの活用が拡大されたこと、情報収集や集約、整理を行うマネジメント要員を適正に配置したことも、今回非常に早く対応できた要因ではないかと言われています。(2)令和2年7月豪雨ア.予想の2倍以上の豪雨台風10号の前にあったのが7月豪雨です。7月豪雨では、86人の死者・行方不明者、建物被害は1万7千件を超えました。実際の雨量が予報を上回ったのです。予報では、九州北部は24時間で大体200ミリ程度の雨と言われていましたが、実際には予報の倍以上の455ミリを超える雨が降ったため、結果として、人吉市のタイムラインが機能しなかったと言われています。つまり、予測が大幅に外れると、避難勧告を出すタイミングがずれてしまうのです。予測というのは、先ほどの台風10号のように良い方に外れる場合は問題ありませんが、悪い方に外れることがあることも考えておく必要があると思います。イ. 「逃げる防災計画」から「逃げなくてもいい防災計画」へこの7月豪雨で一番問題になったのは、熊本県球磨村にある「千寿園」という特別養護老人ホームで犠牲者が14人出たことです。球磨川の水位が上がったために、球磨川に注ぐ小川という支流が逆流しバックウォーター現象でこの施設付近が一気に浸水したのです。「千寿園」では入所者を1階に寝起きさせていました。ここは浸水想定区域です。また、宿直職員は5人しかいない。これでは「逃げる計画」がスムーズにいくはずはないのです。これからは「逃げなくていい計画」も立てなければいけないと思います。浸水しても逃げなくてもいい、最初から2階に寝かせるとか、そういったことも大事なのではないかと思います。(3)令和元年台風19号ア.居住誘導区域が浸水想定区域に令和元年の台風19号では、千曲川が破堤、決壊し、建物流失・浸水被害や人的被害を出す災害となりました。地方自治体は、都市再生特別措置法の改正(平成26年)を受けて「立地適正化計画」を作成しています。そのなかで「居住誘導区域」を設けることになりました。人口減少化においても医療とか福祉とか、あるいは、商業等の日常生活サービス、施設や公共交通が持続的に確保されるように一定のエリアに居住を誘導し人口密度を維持する区域、これが「居住誘導区域」です。ところが、各地の「居住誘導区域」のほとんどが浸水想定区域に入っているのです。なぜかというと、頻発、激甚化する異常気象災害に対応するため水防法が平成27年に改正され、従来の100年から200年に一度の降雨量を基準にするのではなく、今後は1000年に一度程度の雨を想定したハザードマップを作ることになったのです。そうすると「居住誘導区域」のほとんどが「浸水想定区域」に入ってしまい、逃げなければいけない地域に居住を誘導しているという矛盾が生じてしまったのです。イ.経験の逆機能台風19号により、長野市でも住宅街が水没しましたが、ここも一部が「居住誘導区域」になっていました。この台風19号により、北陸新幹線の車両基地も水没して、新幹線10編成、120車両全てが廃棄処分になってしまいました。このとき、JRはどういう考え方をしたのかというと、気象庁は「60年前の狩野川台風に匹敵する記録的大雨に警戒してください」と発表しました。狩野川台風は1,200人の犠牲者を出した大雨です。だから、気象庁は大雨に警戒してくださいと言っていて、当初JRは、この車両を少し高いところの高架になっている線路に移動させることを検討していました。しかし、その前月の台風15号で、猛烈な強風で鉄塔が倒れ大きな被害が出たこともあって、高架での強風被害を恐れ、結果として、車両基地にそのまま置かれたままになり、水没してしまったのです。直近の既往災害の経験に捉われ判断を誤ることを「経験の逆機能」といいますが、ここでは、この「経験の逆機能」が働いてしまったのです。こうしたことも組織は考えて、最近の災害だけにとらわれないことも大事だと思います。 ファイナンス 2020 Dec.79上級管理セミナー連載セミナー

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