ファイナンス 2020年12月号 No.661
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が確認できますが、低圧線とか、あるいは引込線の場合には、巡視要員が必ず現場に行って目視で確認する必要があるので、復旧にとても時間がかかるのです。ア.停電の時に何が困るのか例えば北海道胆振東部地震のブラックアウトによって何が起きたのでしょうか。私も現場に行きましたけれども、テレビ、エアコンが使えない、マンションは断水する、タンクレスのトイレも電気を使っているので流せない。当時の札幌市のすすきのの写真を見ると真っ暗ですけど、不思議なことに、信号機が点灯しているのです。信号機がなぜ点灯しているかというと、重要幹線の信号機だけについている信号機用非常電源が働いているのです。これはすごく役に立ったと言われています。コンセントもあり、ここから救助用の電源を引き出すこともできます。今言ったように、テレビ、エアコンが使えない、エレベーター、セキュリティー、電動シャッターが使えない、携帯のバッテリーが充電できない、あるいは、光回線、CATV、ISDN、ADSL、こういう回線が使えなくなる、電車、地下鉄は全面運休、立体駐車場から車が出せない。深刻だったのは、在宅人工呼吸器を使っている方など約4,200人を緊急搬送せざるを得なかったことです。非常電源がなかったからです。イ.停電などへの備えですから、職場や施設ごとに自家発電設備、小型発電機やモバイルバッテリーの設置、あるいは備蓄というのが非常に重要だと思っています。停電になると、ガソリンスタンドの多くが営業を停止してしまいます。全国の給油所での非常電源設置率は約20%のため、80%が停止してしまいますので、車の燃料は2分の1給油ルールが必要です。ATMで現金が下ろせない、クレジットカードが使えない。だからやはり現金は必要です。また、コンビニもスーパーも空っぽになりますので、1週間分の水と食料の備蓄や非常用トイレは本当に必要です。我が家で用意しているのは、カセットガス式の発電機です。カセットコンロと両方使えて、結構役に立ちます。最近では保存期間10年の電池が売られています。あるメーカーでも「電池の本」とか、そういったものでバッテリーの備蓄を勧めています。停電時に懐中電灯1本では暗いから、ランタンを用意すれば、LEDですから結構長持ちします。こういう物を普段から家庭でも組織でもきちんと用意しておくことが必要です。組織でも防災資機材の適正備蓄量の目安があります。それは何かといったら、次のA、B、Cを足したものです。Aは職員数×1日分、Bは帰宅困難者数×2日分、Cは防災本部要員数×6日分。これでほぼ7日分の備蓄になります。農林水産省も最近は備蓄7日分ということを推奨しています。「7日分が基本」と考えて備蓄の確認というものをやってほしいと思います。4. 最近の大規模災害に学ぶ、個人と組織の防災・危機管理(1)令和2年台風10号先日、台風10号が来ました。9月3日時点で気象庁は「台風10号は、この先、急激に気圧が低下して、特に6日には最大風速55メートル、最大瞬間風速80メートル、猛烈な台風になります、特別警報を出します」と発表しました。これを受け、新幹線、在来線が計画運休し企業も組織もみんな計画休業したのですが、気象庁は6日になってから「特別警報を見送ります」と発表しました。これは空振りじゃないかという意見もありましたが、私は決して空振りではないと思います。実際に48万戸の停電、そして、建物損壊も一部ありました。ただ、予報が被害の少ない方に外れたのは、よかったと思っています。今回の場合、停電の復旧が迅速でした。九州電力は頑張った、という感じがします。例えば、令和元年の台風15号の場合には93万戸の停電が99%復旧するまでに12日間、同じ令和元年の台風19号の場合にも4日間かかっています。でも、今回の台風10号の場合には48万件のうち99%が2日で復旧しました。なぜ早期に復旧できたのかというと、昨年の台風15号、台風19号の教訓を生かしたのです。停電箇所の巡視や復旧対策はマンパワーがなければできないわけですから「台風が来るよ」と言われたときから約1万人の要員を事前に配備して、初動に全力を上げるよ78 ファイナンス 2020 Dec.連載セミナー

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