ファイナンス 2020年12月号 No.661
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きに問題となるのは、リーダーには「現実を素直に受け入れたくない症候群」があるということです。都合のいい情報だけを積極的に集めて、反証情報は無視したり、過小評価したりする傾向があるのです。コロナ禍で特に問題となるのは、サンクコスト対策です。サンクコストというのは、埋没費用とも言いますが、事業や行為に投下した資金や労力のうち、中止、撤退したら戻ってこないコストです。これまでの投下した資金や労力を惜しんで継続していけば、さらに損失は拡大してしまうこともあります。このような状況においては、事業の中止や撤退を考えていなければならないのですが、なかなか決断できないのが現状です。このコロナ禍を機に、国も自治体も、必要な場合にはリーダーが事業の撤退、中止の判断をすべきなのです。(3)新型コロナウイルスとの共存のためにこれから新型コロナウイルスと共存せざるを得ないとしたら、組織が止まらないよう、職場で濃厚接触者をできるだけ出さない対策を必死になってやらなければいけません。リスクゼロはまず無理なので、その許容限界がどこにあるのか、安全の定義をもう一度考え直す時期に来ているのではないかと思います。先ほど申し上げたコロナ禍における財政悪化に対処するには、ミッションの再構築が必要です。公助には限界があるということを明確にしないと、財政は改善できないだろうと思います。菅総理は「自助・共助・公助」と言っておられますが、私は、自助と共助の間に「近助」、つまり、近くで助け合うという考え方も必要だと思います。公助で何でもやるという時代ではもうない、近くで助け合えるものは近くでやる、事業によっては公助の撤退ということも考えていかなければいけないと思います。3.複合災害への備え(1)避難についての啓発私は、感染症と大規模災害が同時に起きる複合災害がこれからのニューノーマル(新常態)になると考えております。パンデミックは20年に一度発生していますし、台風は年に3個上陸、100人以上犠牲者を出す大地震は、6年に1度の割合で発生しています。そしてこの10年間、記録的豪雨は毎年発生していますので、複合災害はいつでも当たり前に起こり得るという認識が必要です。ですから、安全が確保できた住民は原則在宅避難、というように、感染防止のため避難所に行かないという選択肢を持ってもらうことが必要です。避難する場合でも、指定避難所プラス分散避難で、親せき、知人宅や車中避難を選択してもらうことも必要です。このために大事なことは、住民の意識啓発にコストとエネルギーを傾注することです。そうしないと混乱するし、あるいは、避難所の収容人員が常に超過という事態が起こります。住民の意識を啓発することで分散避難も可能となるのです。(2)計画休業の判断はいつ、だれがするのか最近、鉄道各社は、タイムライン(事前防災行動計画)を定着させたことによって、計画運休を非常に早い段階で発表するようになっています。ほとんど24時間前、もしくは、36時間前には「この路線が止まる可能性高い」とか「何時から計画運休します」という発表をしています。ところが、一般組織は、計画休業、あるいは計画的な業務縮減の判断をいつ、誰が、どうやって、いつまでに行うかというルールがはっきりしていないところが多くあります。これを早く行わないと、通勤している人は非常に困ってしまいますので、こういうこともリーダーは明確化して、マニュアルの中に規定しておく必要があると思います。(3)大規模停電時代における備え最近、異常気象時代と言われますが、これは大規模停電時代でもあります。平成30年9月に近畿地方を襲った台風21号では、関西国際空港が大変な被害を受け、240万戸が停電しました。その後、9月6日の北海道胆振東部地震では、全道で295万戸が停電しました。さらに9月30日には台風24号が和歌山に上陸し、180万戸が停電しました。そして、令和元年9月の台風15号でも93万戸が停電しました。停電の際、高圧線関係は電力会社の本部で通電状況 ファイナンス 2020 Dec.77上級管理セミナー連載セミナー

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