ファイナンス 2020年12月号 No.661
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∙2(2+1))、後者のコンベクシティは1P(100∙1(1+1)+100∙2(2+1)+100∙3(3+1))です。ここで、1800=300∙2(2+1)<100∙1(1+1)+100∙2(2+1)+100∙3(3+1)=2000ですから、後者のコンベクシティの方が大きいです。本文で説明したとおり、生命保険会社は終身年金などを販売するがゆえ、遠い将来一定期間継続して支払いが発生する可能性がありますから、その負債サイドのコンベクシティが大きくなる可能性を有しています。*14) 先物と先渡価格の違いについても、コンベクシティ調整という概念が出てきます。ただ、ハル(2016)など通常のファイナンスのテキストでは、証拠金の有無でその価格の乖離を説明することがほとんどです。先物と先渡価格の違いについては服部(2020b)を参照してください。上記のようなメカニズムが生まれる理由はコンベクシティが年限の2乗に比例して増加するためです。2乗で効いてくるものについては、平均が同じときには、ばらつきが大きい方が値が大きくなります。これは、中=小+大2のとき、中2+中2<小2+大2という関係式が成立することからも分かります。これに似た議論として、バーベル型のポートフォリオのほうがブレッド型のポートフォリオより大きなコンベクシティを持つことが挙げられます。これについては例えばタックマン(2012)の6.9節で議論をしています。BOX 2 コンベクシティ調整(コンベクシティ・アジャストメント)債券のデリバティブのテキストではコンベクシティ調整(コンベクシティ・アジャストメント)という概念の説明がなされますが、この概念にも債券価格と金利の非線形の関係が深くかかわっています。金利にペイオフが依存するオプションを考える際、本稿で紹介したように金利や価格に非線形な関係があるため、債券価格の期待値と金利の期待値にずれが生じてしまいます。債券プライシングをするうえでその調整が必要になりますが、これはコンベクシティに伴う調整であるがゆえ、コンベクシティ調整といいます*14。例えば、コンスタント・マチュリティ・スワップ(Constant Maturity Swap, CMS)などデリバティブのプライシングを考える際、この知識は必要になります(今は発行が停止されていますが、かつて財務省が発行していた15年変動利付国債は10年国債の金利を適用金利としているがゆえ、CMSと強い関連性を有しています)。本稿ではコンベクシティ調整はテクニカルであるため省略しましたが、関心のある読者はハル(2016)の30章などをご参照いただければ幸いです。5.おわりに本稿では、コンベクシティについて特にその直感を重視した解説を行いました。筆者を含め、債券市場にかかわったものは必ずコンベクシティについて考える機会があります。しかし、多くの書籍ではその説明が簡素である印象が強く、多くの実務家にとってそのメカニズムが未消化のままであることが少なくありません。そこで本稿では様々な例を取り上げ、可能な限り直感的な説明をするとともに、生命保険会社の例などを挙げ、コンベクシティを理解しておくことの重要性を強調しました。今後はグリッド・ポイント・センシティビティなどこれまで触れてこなかった金利リスクについて説明をすることを予定しています。参考文献[1]. ミシェル・クルーイ、ロバート・マーク、ダン・ガライ(2015)「リスクマネジメントの本質 第2版」共立出版[2]. ブルース・タックマン(2012)「債券分析の理論と実践(改訂版)」東洋経済新報社[3]. 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(金利の期間構造)の決定要因について―日本国債を中心とした学術論文のサーベイ―」ファイナンス10月号、41–52.[4]. 服部孝洋(2020a)「日本国債先物入門:基礎編」ファイナンス1月号、60–74.[5]. 服部孝洋(2020b)「日本国債先物入門―先渡と先物価格の乖離を生む要因―」ファイナンス3月号、37–41.[6]. 服部孝洋(2020c)「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」ファイナンス10月号、54–65.[7]. ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい[8]. ラッセ・ヘジェ・ペデルセン(2019)「ヘッジファンドのアクティブ投資戦略―効率的に非効率な市場」金融財政事情研究会[9]. 四塚利樹(2005)「イールドカーブ戦略の理論と実践―米国債券市場における経験と展望―」Waseda University Institute of Finance, Working paper series. ファイナンス 2020 Dec.75シリーズ 日本経済を考える 107連載日本経済を 考える

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