ファイナンス 2020年12月号 No.661
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わけです。生命保険会社が抱えるコンベクシティのミスマッチにかかるリスクは実際に顕在化しました。ご存じのとおり、日本国債の金利は長期的に低下トレンドにあり、年々、金利が低くなっていきます。このような局面で日本のように金利が低下していくと、負債サイドのコンベクシティが大きいがゆえ、デュレーションは上昇していくことになります。一方、資産サイドのデュレーションはコンベクシティが相対的に小さいがゆえ、さほどデュレーションは伸びていきません。すなわち、生命保険会社の資産と負債の構成が変化しなかったとしても、資産側と負債側のデュレーションのミスマッチが拡大していくことになったわけです。見方を変えれば、デュレーションのミスマッチだけでなく、コンベクシティのミスマッチを解消するために、生命保険会社は超長期債へ投資する必要性が生まれているとみることもできるのです。ここではもっぱら生命保険会社のALMにフォーカスしてコンベクシティの活用例を説明しましたが、金利上昇時のリスク量を計算するうえでコンベクシティを考慮することも少なくありません。例えば、日銀の金融システムレポートでは、金利が1%上昇したときの金利リスク量(100ベーシス・ポイント・バリュー)が掲載されていますが、このリスク量はコンベクシティも考慮した値になっています*7。3.4  国債先物の金利リスク量とコンベクシティリスク管理に際して重要な役割を果たす国債先物について、そのリスク量とコンベクシティの関係を説明します。まず、先物価格をP、コンバージョン・ファクターをCF、残存7年の国債の価格をPCTDとします。服部(2020a)で説明したとおり、この場合、P×CF=PCTDが成り立ちますので、金利感応度を考えるため、先物価格(P=1/CF×PCTD)を金利(r)で微分し、下記のように先物のDV01を導出します。∆P∆r×0.01%=1CF ∆PCTD∆r×0.01%*7) 日銀の金融システムレポートではコンベクシティ以上の高次項も勘案した推計値になっています。ここで∆PCTD/∆r×0.01%は7年国債の(チーペスト)DV01に相当しますが、先物の金利リスク量(DV01)はこれに1/CFを掛けた値になります。服部(2020a)で説明したとおり、現在、CFはおおよそ0.7前後になりますから、CFはおおよそ1.4程度の値になります。したがって、先物の変化自体は7年国債に連動しますが、先物価格の動きはCFで拡張されたような大きさで動く点に注意が必要です。その結果、先物のDV01はおおよそ10年国債のDV01に近い値になります。大切な点は先物の金利リスク量であるDV01は変化しうる値であることです。そもそもデュレーションとは「期間」の概念であり、期間とリスクが関係している以上、債券は時間を通じてリスクが低下していきます。チーペストは、受渡適格銘のうち残存年数7年に近い国債ですが、チーペストは時間がたつにつれ年限が短くなります。また、チーペストであった銘柄の年限が7年より短くなれば、チーペストとなる銘柄は変わりますから、例えば、チーペストの年限は0.25年延びることで金利リスクが増加することになります。もっとも、これ以外にも国債先物の金利リスク量を増加させる要因はあります。まず、金利が低下することにより、チーペストのクーポンが低くなることでCFが低下していることが挙げられます(CFが小さくなると、1/CFは大きくなるため、先物のリスク量は増加します)。また、コンベクシティ効果によりデュレーションは金利水準に依存しますから、7年国債のデュレーション(DV01)そのものが金利低下の中で大きくなっている点も看過できません。実務家は国債先物1枚のDV01がおおよそ10万円というイメージをもっていますが、このように先物の金利リスク量は様々な要因の影響を受けますから、いつも一定の値であるわけでなく、変化しうるものとして認識しておく必要があります。実際、円金利は低下トレンドにありますから、国債先物の金利リスク量は上昇傾向にあります。7年国債(チーペスト)のDV0172 ファイナンス 2020 Dec.連載日本経済を 考える

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