ファイナンス 2020年12月号 No.661
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国債を購入できたとします)。先ほどの例と同様、私は読者のもつ(1%金利が高い)金利2%の10年国債と交換したいわけですが、読者はただでは渡したくありません。10年債における1%の金利上昇の場合、デュレーションが10であるとすれば、非線形性を勘案しなければ(100円の債券に対して)10円だけ価格低下することに相当します。しかし、筆者はこの交換に際し、10円支払うことはありません。なぜなら、*5) 厳密には-dDdrがCになるわけではありません。計算すれば、-dDdr=d{1P dPdr}dr=-(dPdr)2P2+1P d2Pdr2=-(1P dPdr)2+C=-D2+Cとなります (1Pをrで微分したとしても0になるわけではないことに注意。)。Cは-dDdrとは一致せず、正確にはC=-1P d(PD)drとして求められます(この脚 注を記載するにあたり、財務総合政策研究所客員研究員の石田良氏のサポートを得ました。記して感謝申し上げます。)今10円受け取れば、10年間複利で運用できるため、10年後10円以上得ることができるからです。この場合、複利の効果があるため、10円はより一層大きな金額になり、このことは将来を大きく割り引く効果を持ちますから、非線形性はより大きいことにつながります。このことは、コンベクシティは1年国債より、例えば40年国債など年限が長い国債のほうが大きいことを意味します。BOX 1 ネガティブ・コンベクシティ債券の中には、負のコンベクシティを持つ債券もあります。その最も代表的な債券が不動産担保証券(Mortgage-Backed Securities, MBS)です。MBSは、金利が低下すると担保となる住宅ローンの借り換えが生じ、年限が短くなる効果が生まれるため、負のコンベクシティを有します。例えば、MBS市場において金利が低下(上昇)した場合、MBSは負のコンベクシティを持つため、(国債など正のコンベクシティを持つ債券とは異なり)デュレーションが低下(上昇)します。負のコンベクシティが興味深い点は、MBSを有する投資家は自らが有する金利リスクが変化してしまうため、この調整のためには、例えば米国債や金利スワップをロング(ショート)することで金利リスクをとる(減らす)必要が生まれる点です(このようなヘッジをコンベクシティ・ヘッジといいます)。これは金利が下がった(上がった)場合(すなわち、債券の価格が上がった(下がった)場合)、コンベクシティ・ヘッジのためさらに債券を買う(売る)メカニズムを生むため、金利の動きが増幅する効果を持ちます。米国のMBS市場は巨大な市場であるため、金利が大きく動いた時、MBSのコンベクシティ・ヘッジで市場が動いたと説明されることは少なくありません。四塚(2005)は、「近年の米国市場において、政府系金融機関やヘッジファンドなどによるコンベクシティ・ヘッジは国債市場やスワップ市場を揺るがす規模にまで拡大しており、いまやMBSアービトラージを理解せずに米国債券市場を理解することはできないと言っても過言ではない」(p.11)と指摘しています。なお、タックマン(2012)では負のコンベクシティを持つ証券としてコーラブル債を例に挙げていますが、同じメカニズムで金利が下がることによりコールがかかる確率が上がることがデュレーションを低下させる要因となり、負のコンベクシティを生みます。3.コンベクシティのフォーマルな定義3.1 数式を用いたコンベクシティの定義服部(2020c)で説明したとおり、デュレーションとは金利(r)が変化した時の価格(P)の変化でしたが、前述のとおり、コンベクシティは金利が変化した際のデュレーションの変化分になります。デュレーションをD=-1P dPdrという微分を用いた概念で定義すると、コンベクシティは金利が変化した際のデュレーションの変化ですから*5、下記の式がコンベクシ70 ファイナンス 2020 Dec.連載日本経済を 考える

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