ファイナンス 2020年12月号 No.661
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者)がクーポン1%を有する100円の1年国債に投資していたとしましょう。この場合、私は1年待てば、クーポン1円と元本100円を受け取ることができます(簡単化のためクーポンが年1回払いとしています)。しかし、私がこの債券を購入した後、急に金利が上昇し、1年債の利回りが2%に上昇したとします。これは政府が2%のクーポンを有する国債を100円で発行する状況へと市場が変化したことを意味します。そこで、読者は(筆者とは異なり)クーポン2%を生む1年債を100円で購入できたとしましょう。もちろん私としては1%のクーポンを生む国債と引き換えに2%のクーポンを生む国債が欲しいですが、読者はもちろんただでは渡したくありません。それでは私は読者にいくら払って交換すべきでしょうか。まず、1%のクーポンを生む国債と2%のクーポンを生む国債は1年後それぞれ1円、2円のクーポンを生み出しますから、キャッシュ・フローの違いは1円になります。そこで、仮に私が読者に1円を支払って、2%のクーポンを生む国債を読者と交換したとします。この場合、私はこの金利上昇に伴っていわば1円損したと解釈できますから、保有していた国債の価格が100円から99円に低下したと解釈できます。これは金利1%上昇に対して、ちょうど100円の1%に相当する1円分低下しているわけですから、図1でいえば、左図のように線形の形で低下していると解釈できます。これは金利と価格に線形の関係(つまりデュレーションのみを想定する関係)があることを意味しています。もっとも、私はこのような取引には応じません。なぜなら、私は今の1円と将来の1円の価値が違うことを知っているからです。今1円を得られれば、1年間運用できますから、それが金利を生みます*4。そのため、(私が保有する1%クーポンの国債に対して)1年後1円高いクーポンがもらえる国債に対して1円支払うくらいであれば、その1円を1年間運用したほうがよいという判断をするわけです。逆に言えば、私と読者が折り合える価格は、1年運用してちょうど1円に相当する現在の価格(つまり、1円を金利で割り引いた価格)になります。ここで割り引く金利を2%とするならば、1/(1+0.02)≒0.98ですから、先ほどのケー*4) 実際に現在の円金利の中にはゼロあるいはマイナスになっているものもありますが、ここではコンベクシティの一般的な説明を行うため、金利が正であることを想定しています。スでいえば、1円ではなく、0.98円を読者に渡せばよいということになるわけです。これは1%の金利上昇に対して、(100円の1%分に相当する)1円の損失ではなく、0.98円の損失にとどまっているわけですから、いわば非線形の関係が生まれてきているわけです。これがまさにコンベクシティの効果です。このようにして考えると、我々がそもそも割り引くという行為をおこなうがゆえ、債券のコンベクシティが発生するということがわかります。2.4 コンベクシティと金利水準・年限の関係この議論を発展させれば、金利の高い国債ほどコンベクシティが大きいことが示せます。先ほどは1%金利上昇を考える際、1%の1年債を考えました。今度は私が金利10%の1年国債を購入して、すぐに1%だけ金利が上昇したとしましょう(先ほどと同様、読者は金利上昇後に1年国債を購入できたとします)。1年債の金利が10%から(先ほどと同様)1%上昇した場合、私は(1%金利が高い)金利11%の1年国債が欲しいですが、読者はただでは渡したくありません。先ほどの事例では1年2%で運用しましたが、今回は金利が11%であるため、1年11%で運用できますから、1円の現在価値は1/(1+0.11)≒0.9となります。先ほどの事例では1年債が1%の金利上昇をした場合、現在価値は0.98であったことを思い出すと、同じ1%の金利上昇であっても、1円の現在価値は0.98円から0.9円へと低下しており、この交換で私が支払う価格は0.98円から0.9円へと縮小しています。その意味で、(100円の1%分に相当する)1円に比べ、その損失分が一層小さくなりますから、金利水準が高いと非線形性がより一層大きいことがわかります。このことからコンベクシティは金利が高いほど大きいことがわかりますが、これは金利が高ければ将来のキャッシュ・フローに対して、私たちはより強く割り引くことから来ているわけです。年限が長い国債についてもコンベクシティが大きくなります。私が金利1%の(1年債ではなく)10年国債を今購入して、すぐに1%だけ金利が上昇したとしましょう(先ほどと同様、読者は金利上昇後に10年 ファイナンス 2020 Dec.69シリーズ 日本経済を考える 107連載日本経済を 考える

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