ファイナンス 2020年12月号 No.661
70/98

過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.htmlコンベクシティ入門―日本国債における価格と金利の非線形性―東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1071.はじめに*1「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」(服部、2020c)では最も代表的な金利リスクの指標であるデュレーションについて解説を行いました。デュレーションとは金利が変化した時、どの程度国債の価格が低下するかを示すものであり、国債のような固定利付債の場合はおおよそ年限と一致するなど、便利な性質があります。デュレーションを用いれば金融機関が有する国債の金利リスク量を簡易的に計測できるなど実務的に様々な場面で用いられています。服部(2020c)で強調したようにデュレーションは金利の微小の変化に基づく概念です。逆に言えば、仮に金利が大きく変化した場合、デュレーションのみに基づき計算すると誤った価格変化が算出される可能性があります。実は、デュレーションは金利水準に依存し、このことを捉える概念として「コンベクシティ」があります。例えば、読者が40年国債を保有しており、金利が1%上昇した場合を考えてみます。40年債のデュレーションが35であるとすると、デュレーションのみを考慮すると(デュレーションは金利が動いた時の価格の感応度でしたから)35×1%=35%の価格低下という予測が立ちます。しかし、実際には金利が上昇する中で金利リスク(デュレーション)が低下するというコンベクシティの効果も考慮すると実際*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。の価格低下は35%より小さな値になるのです。本稿で説明するとおり、国債のコンベクシティはデュレーションのおおよそ2乗の値になりますから、特に生命保険会社など超長期債を保有する投資家にとって重要性が高い概念といえましょう。もっとも、従来の債券テキストではコンベクシティの説明があまり丁寧に行われていないためか、実は債券市場に長く携わった人でもなぜ債券にコンベクシティが存在するかを直感的に説明することは必ずしも容易ではありません。そこで本稿では紙面を割いてコンベクシティを説明することで、その直感について正面から取り上げようと思います。本稿では日本国債のコンベクシティについて具体例を挙げて議論をするとともに、生命保険が有するコンベクシティなど具体的な事例を取り上げます。また、正確な理解のため数式を用いた説明も行います。なお、本稿は服部(2020c)で説明した概念を前提としているため、本稿を読む前にそちらをご一読いただければ幸いです。66 ファイナンス 2020 Dec.連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る