ファイナンス 2020年12月号 No.661
7/98

お酒の地理的表示(GI=Geographical Indication)は、地域の共有財産である「産地名」を守り、適切な使用を促す制度。産地が申請し、国税庁長官の指定を受けると産地名を独占的に名乗ることができる。現在、国レベルのGIである「日本酒」を含む、全国で13の指定が行われている。海外では、古くからフランスなどワイン生産国で産地名を名乗ることができる公的な制度を定めていた。その後、WTO(世界貿易機関)発足の際に、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国に義務付けられたことから、日本でも平成6年に国税庁が制度を制定、国内外の地理的表示の適正化を計ってきた。さらに、平成27年10月に見直しを行い、地理的表示を受けるための基準を明確化するとともに、すべての酒類を対象とした。地理的表示の指定を受けることにより、主に図表1のような経済的効果が期待できる。消費者にとって酒類を購入する際、商品のラベル等の説明だけでは、消費者は品質を評価しにくい。地理的表示の指定を受けた酒類は、生産基準が公開されており、第三者の品質管理が義務付けられているため、消費者は事前に品質を確認した上で購入が可能になる。一方、市場で一定の評価を得てブランド化した酒類は、その名声にフリーライドする模造品が出回る可能性があり、最良の価格設定が難しくなる。地理的表示の指定を受けることで行政の取り締まりが可能になり、模造品の流通を防止することができる。ただし、地理的表示は、指定を受けるだけで「地域ブランド」としての価値が向上するものではなく、製品の付加価値を向上させていくためには、地理的表示を活用した地域ブランド戦略の構築が重要となっている。次ページ以降では、実際に指定を受けた地域がどのような活動を行っているかを紹介しよう。図表1 地理的表示の導入効果「地域ブランド」による他の製品との差別化日本の特産品として輸出拡大に寄与●製造された酒類とその産地とのつながりを明確にすることにより、「地域ブランド」としての付加価値の向上が期待でき、他の製品との差別化を図ることができる。●地理的表示が浸透しているヨーロッパ等においては、信頼できる特産品として扱われるなど、海外への輸出を後押しすることが期待できる。消費者の信頼性の向上「地域ブランド」の保護効果●品質検査等により一定の品質が確保されることにより、消費者の信頼性向上につながる。●公開された生産基準により、消費者は容易にその産地の製品に関する情報を知ることが可能になる。●行政の取締りにより「地域ブランド」が保護されるため、商標のように自力で訴訟等を行う必要がない(国際的にも保護されうる。)。●似たような表示も禁止されるため、努力して築き上げた「地域ブランド」への「ただ乗り」を防止できる。産地名が有する「ブランド価値」を保護し消費者の適切な商品選択が可能にお酒の地理的表示(GI)とは? ファイナンス 2020 Dec.3すべての酒類を対象に国税庁長官が指定お酒の地理的表示(GI)が地域活性化に一役買う特集

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る