ファイナンス 2020年12月号 No.661
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日本の農業における課題・一般的に、農業経営は大規模化が進むにつれて、収益性も向上すると考えられる。しかし、作付規模別の米の生産コストをみると、規模拡大に伴い生産コストは減少するものの、減少幅は逓減する傾向にある(図表7)。・その要因としては、日本は耕地面積における中山間地域の比率が高く(図表8)、大規模化した場合でも農地が分散していること等が影響していると考えられる。・法人経営体は従業員を集めやすい点で大規模化に適していると考えられるが、企業経営には業績予想に基づく事業の計画と実行が求められる。しかし、農業総生産額が夏期の気温に大きく影響を受けているように(図表9)、農業は天候や自然災害等の不確定要素の影響を受けやすく、安定した企業経営が難しいといえる。図表7 米の作付規模別1経営体当たりの生産コスト(2018年度)05101520250.5未満0.5-1.01.0-2.02.0-3.03.0-5.05.0-10.010.0-15.015.0-(万円/ha)図表8 中山間地域比率の比較(2010年データ)01020304050(%)オランダデンマークドイツフランスポルトガルイタリア日本図表9 農業総生産額と夏の気温▲15▲10▲5051015▲3▲2▲101231518100520001995(前期比、%)(前年差、℃)農業総生産7-9月期平均気温(右軸)収益性の向上にむけて・前述のように、中山間地域の多い日本での農地の大規模化は難しいため、ICT・ロボット技術等の活用により、農地が分散していることによる生産性の低下を補う必要があると考えられる。・具体例としては、自動運転で隣接圃場を移動できるトラクターや、農地間の斜面に対応した無人草刈ロボット等が挙げられ、実際に無人草刈ロボットがコストを2割削減したという実証実験結果も出ている(図表10)。・一方、天候や自然災害等の不確定要素による影響を取り除く方法としては、植物工場が挙げられる。植物工場は、ICT技術を用いた生育環境の制御によって、天候に左右されずに農産物を安定生産することができる施設である。植物工場は、露地栽培よりも事業計画が立てやすい点で、企業経営に適している(図表11)。・植物工場は、生産コストが高く栽培技術確立までに時間がかかるため、現状では赤字施設が多い。ただし、栽培面積が大きくなるほど黒字施設の割合が高くなるため、大規模化のメリットは大きい(図表12)。・今後はICT・ロボット技術や植物工場等を通じた、農業部門の収益性向上と不確定要素の軽減が期待される。図表10 無人草刈りロボット導入前後の人件費比較0510152025(注)導入後の人件費は、機械費と機械管理に係る   人件費ロボット導入前ロボット導入後(万円)図表11 露地野菜と植物工場野菜の比較露地野菜植物工場野菜収穫時期・品種によって概ね決まっている・年中栽培可能生産量・天候・日射量に応じて変動・天候等に左右されず安定生産が可能価格・時期や天候で変動・相対的に低価格・安定・高価格品質・天候・日射量に応じて変動・形状や味等を一定にすることが可能機能性・栄養素の付加等の機能性強化は難しい・農産物に含有する栄養素等の機能性を調整可能・無農薬で生産が可能図表12 植物工場の面積別収支状況全体3千㎡以上1千㎡~3千㎡未満500㎡~1千㎡未満500㎡未満100%75%50%25%0%黒字収支均衡赤字(出典)農林水産省「農林業センサス」 「農業経営統計調査」 「生産農業所得統計」「農産物価統計」「令和元年度 食料・農業・農村の動向」「スマート農業の展開について」、総務省「人口推計」、日本政策金融公庫「アグリ・フードサポート2019夏号」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、マッキンゼー「日本における農業の発展、生産性改善に向けて」、内閣府「国民経済計算」、気象庁「気象観測データ」、第一生命経済研究所「日照不足が及ぼす広範囲な影響」、三井住友銀行「植物工場の現況と今後の方向性」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Dec.65コラム 経済トレンド 78連載経済 トレンド

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