ファイナンス 2020年12月号 No.661
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今度は、この厳格な要件により、多くの企業が申請できないでいるという指摘が出ており*32、11月3日現在、緊急支援の支払額が138億ユーロであるのに対し、つなぎ支援の支払額は13億ユーロにとどまっています。*33(4)EUの中のドイツ世界の中で見ると、ドイツにおける新型コロナウイルス感染者数はかなり多い方ですが、ヨーロッパの中ではイタリアやスペイン等、ドイツ以上に大きく影響を受けた国があります。これらの国は、新型コロナウイルスによる影響を強く受けただけでなく、元々の債務残高対GDP比も、ドイツ59.6%に比べてそれぞれイタリア134.8%、スペイン95.5%(2019年)*34と財政状況もあまりよくありません。その中で、欧州共同で債券を発行し、それによって得たお金をイタリアやスペイン等の影響を受けた国が中心に受け取るという案が議論され始めました。もともと、ドイツは、新型コロナウイルス危機以前は、シュヴァルツ・ヌル(Schwalz Null)という新規国債を発行しない施策が取られている等、借金に対する抵抗が強く、またEU予算等、財政面でのEUの更なる統合について、ドイツのお金が他国へ流れるという構造になりがちということもあり、消極的なところがありました。議論が始まった4月頃は、メルケル首相や、ショルツ財務大臣は、面と向かって否定しないものの、同議論への言及を避けていました。その後、議論が白熱化し、南欧諸国が苦しむ中で、5月中旬、メルケル首相はフランスのマクロン大統領と共に、欧州委員会が市場で資金を調達して各国がそれを保証し、得た資金をもとに返済不要な補助金をコロナの影響を強く受けた国に与える5,000億ユーロ規模の復興基金の設立について提案し、今までのドイツの立場を大きく転換する*32) https://www.tagesschau.de/inland/corona-hilfen-103.html*33) 下記リンクでは、最新の値が表示されるようであり、11月3日の値から既に更新されています。 https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Standardartikel/Themen/Schlaglichter/Corona-Schutzschild/zahlen-der-woche.html*34) https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2020/October/weo-report?c=132,134,136,184,&s=GGXWDG_NGDP,&sy=2018&ey=2025&ssm=0&scsm=1&scc=0&ssd=1&ssc=0&sic=0&sort=country&ds=.&br=1*35) https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/dt-franz-initiative-1753644*36) https://www.consilium.europa.eu/de/infographics/ngeu-covid-19-recovery-package/*37) https://www.faz.net/aktuell/politik/ausland/finanzminister-olaf-scholz-gemeinsame-schuldenaufnahme-in-eu-wird-bleiben-16917063.html https://www.spiegel.de/politik/deutschland/corona-krise-angela-merkel-sieht-eu-schuldenaufnahme-als-begrenzte-massnahme-a-27465ca5-5999-44ed-91b5-5a347a17d800*38) https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Standardartikel/Themen/Schlaglichter/Konjunkturpaket/2020-06-03-eckpunktepapier.pdf?__blob=publicationFileこととなります。*35EU債を発行して調達した資金を補助金として新型コロナウイルスの影響を強く受けた国に与えるという案は、特にいわゆる倹約4カ国(スウェーデン、デンマーク、オーストリア、オランダ)から非常に強い抵抗を受けますが、メルケル首相はマクロン大統領と二人三脚で、最終的に欧州理事会において7500億ユーロ(3,600億ユーロの補助金と3,900億ユーロのローン)の復興基金である次世代のEU(NGEU)をまとめ上げます。*36 11月上旬現在、同案は最終的な採択に向けて議論されており、ドイツは議長国であるということもあり、引き続き合意を得るために尽力しているところです。今回の復興基金は、これまで金融政策は統合されていたが、財政政策については、各国がばらばらであった欧州において、新たに財政統合への道を切り開いたという見方ができます。もちろん、ドイツ国内でもこのような復興基金を一度限りのものにするべきなのか、それとも継続するべきなのか議論されているところではありますが、*37危機時の欧州において、ドイツが果たした役割は間違いなく大きいと言えるでしょう。5.ドイツの将来さて、ここまではドイツの過去や現在について話してきました。では、ドイツは今後どのような方向を向いていくのでしょうか。一つの参考になるものとして、先ほどご紹介した6月の経済対策があります。この経済対策は、いわゆる景気・将来パッケージと呼ばれる与党合意であり、ここでは、足元の経済の強化に加えて、今後ドイツが将来投資していくべき分野についても言及されています。*38繰り返しになりますが、具体的には、5G/6G、56 ファイナンス 2020 Dec.連載海外 ウォッチャー

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