ファイナンス 2020年12月号 No.661
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このような中で、ドイツでは、まず、3~4月に雇用の維持や企業の流動性支援を中心に新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う経済的影響を緩和するための施策が実施されます。具体的には、操業短縮手当の要件緩和や、納税の猶予、小規模事業者や個人事業主等への給付措置や、復興金融公庫(KfW)ローンの拡大、経済安定化基金の設置による大企業への直接資本投入等の施策が打ち出されました。その後、6月に足元の経済強化のための施策や環境・デジタル分野への投資促進策等が決定されました。ここでは、付加価値税率の時限的引下げや児童手当対象者への追加支給等の経済強化のための措置に加えて、国家水素戦略の実行や、電気自動車の購入補助の増額等、AIや量子技術、5G、6G研究開発等、将来に向けた投資促進策が取られました。その後、10月に入り、感染が拡大し制限措置が強化される中で、KfWローンの更なる拡大や、制限措置の影響を受ける事業者への給付措置等が発表されています。ドイツにおける対策を見ている中で何点か気づいた点があります。まず、1点目は財政余地を普段から作っておくことは、危機時において有用であるということです。ドイツにおいては、前述の通り、7年間新規国債を発行しないという非常に堅実な財政政策が取られており、ショルツ財務大臣も3月のインタビューにおいて、ドイツの財政状態はファーストクラスである、過去数年にわたる堅実な財政方針によって、現在必要な全てのことを行うことができると述べています。*22また、ブリュッセルをベースとしたシンクタンクであるブリューゲル(Bruegel)のジョルト・ダーバス(Zsolt Darvas)氏も、4月時点での西欧諸国の新型コロナウイルス関係の財政政策のデータを比較し、財政的余地がより限られているヨーロッパ諸国では、新型コロナウイルス対応の施策を即時に行うことに対して慎重で*22) https://www.bundesnanzministerium.de/Content/DE/Interviews/2020/2020-03-17-Handelsblatt-Corona.html*23) Https://www.cnbc.com/2020/04/20/coronavirus-germany-vastly-outspends-others-in-stimulus.html*24) https://www.reuters.com/article/us-europe-single-market-study-idUSKCN1SE07Z*25) https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/coronavirus/wirtschaftsstabilisierung-1733458*26) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1179*27) https://www.bundesnanzministerium.de/Content/DE/Pressemitteilungen/Finanzpolitik/2020/07/2020-07-08-PM-WSF.html*28) https://www.bmwi.de/Redaktion/DE/Artikel/Wirtschaft/Corona-Virus/unterstuetzungsmassnahmen-faq-04.html*29) 一部州が上乗せし、連邦支援より広範に支援を認めていることがあります。*30) https://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/coronavirus-selbststaendige-soforthilfe-1.4889817 https://www.deutsche-handwerks-zeitung.de/corona-soforthilfe-wann-eine-rueckzahlung-droht/150/32542/402173*31) https://www.ueberbrueckungshilfe-unternehmen.de/UBH/Redaktion/DE/FAQ/FAQs/faq-liste-02.htmlあったと指摘しています。*232点目は、EUという超国家的枠組が国内の施策に与える影響です。もちろん、EUという枠組は自由貿易等を通じて、加盟国に利益をもたらし、特にドイツはその恩恵を非常に大きく受けていると言われています。*24一方で、今回の新型コロナウイルス対策の実施にあたり、EUのルールが、後述する復興基金のようなドイツの対外施策のみならず、国内施策に影響を与えた部分があります。具体的には、ドイツでは、大企業の支援を目的とした経済安定化基金という6,000億ユーロ規模の対策が3月末に議会で承認されたのですが*25、実際にEUから経済安定化基金による初の企業支援が認められたのが6月末*26、一般的な経済安定化基金の利用の許可が下りたのが7月*27となりました。3点目は、施策の実施手続における簡易さと厳密さのバランスの難しさです。ドイツでは、3月に小規模事業者やフリーランサー等を支援するための、連邦政府による緊急支援(Sofolthilfe)が決定され、10人以下の従業員の事業者に対して、最大1万5000ユーロが支給されることとなりました。*28この連邦による支援の支給実務は、州によって行われましたが、多くの州においてオンラインで本人が直接申請することができ、一部の州では申請後非常に短期間で現金を受け取ることができました。しかし、後になって、この連邦による支援*29が、事務所家賃等、ビジネス関連の固定費を対象としており、人件費や、プライベートの家賃や生活費は含まないということが明確になり、事務所等を持たないフリーランサーの方が受け取ったものの、実際は使えず困ったり、返却しなければならなかったりという問題が指摘されました。*30このようなこともあり、緊急支援の後続となる、つなぎ支援(Überbrückungshilfe)においては、人件費の一部をカバーするという緩和をする一方で、申請方法については、原則として税理士等の第三者を通してのみ申請できる厳しい形をとるようになりました。*31ところが  ファイナンス 2020 Dec.55海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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