ファイナンス 2020年12月号 No.661
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コラム 海外経済の潮流131大臣官房総合政策課 海外経済調査係長 金きんじょう城 貴裕Fedの長期目標と金融政策戦略1.Intro硬い経済の話に入る前に、Ice-Breakを1つ。筆者と筆者の息子(小4)は、日ごろ互いのエイゴ*1のスキルアップのため、切磋琢磨している。例えば、息子との何気ない会話の中で、「お・も・て・な・し」はエイゴに直すと「hos・pi・tal・i・ty(hospitality)」だね、と言って盛り上がっている。筆者は2度米国を訪れたことがある(1度目は幼少期にアーカンソー州、2度目は高校時代にミネソタ州)が、息子はまだ米国を訪れたことがない。現代ではTVだけでなくインターネットやスマホを通して国内外の様々な情報を適時、手軽にやり取りできるようになったと思う。ただ、筆者は媒体等を通してではなく、直に、異文化そして多様性に触れて欲しいと思っている。Covid-19等の混乱を乗り越え、いつかチャンスがあれば家族を連れて、米国を旅したいと考えている。さて、本稿は今年8月27日のFOMC(米国連邦公開市場委員会:federal open market committee)において改訂(例年1月に改訂)されたFed(連邦準備制度:federal reserve system)の「長期目標と金融政策戦略」について、前回からの主な変更点を整理しつつ、足もとの「(1)パウエルFRB議長(以下、パウエル議長)の記者会見等での発言」および「(2)マクロ経済指標の動向」の2点から考察を加える。2.Fedの2つの使命日本では、米国の中央銀行を示す用語としてFRS*1) 英語の意。筆者の尊敬する元上司(大矢 俊雄 氏)の執筆に倣った表現である。また本稿の執筆にあたって、同氏から貴重なご意見を頂いたことへの感謝を、ここに記したい。*2) 1977年の法改正によって連邦準備法の第2条のA項(Federal Reserve ActSection 2-A)に…the goals of maximum employment,stable prices and moderate long-term interest rates.と定められた(適度な長期金利:moderate long-term interest ratesは、物価目標の達成に伴い実現されるとされ、一般にはデュアル・マンデートと解される。)。なお、Fedの設立を規定している連邦準備法(1913年~)には、当初、雇用の最大化や物価の安定というマクロ経済を安定化させる目的などは明記されていなかった。それぞれのマンデートが定められた経緯について本稿では深く分析しないが、歴史的背景を振り返ると、20世紀の半ばから後半にかけ米国が経験した2つの戦争とその後の不況((1)第2次世界大戦後の世界的不況による雇用の悪化(2)ベトナム戦争の泥沼化と戦費膨張による長期の高インフレ)が関わったものと推察する。(federal reserve System)やFRB(board of governors of the federal reserve system)、Fed等が特段区別なく使われることがあるが、本稿では中央銀行機能の総称であり、Federal Reserve Systemの頭3文字を略称としたFedを用いることとする。Fedは、各国の中央銀行と同じく金融政策を担う組織として目的を一にしているが、Fedの金融政策運営のユニークな点として、2つの責務(デュアル・マンデート:dual mandate)が課せられている点があげられる。これは、各国の中央銀行が主に、「物価の安定(stable prices)」を一義的責務として担っているのに対し、Fedにはもう1つ「雇用の最大化(maximum employment)」という責務があることを意味する*2。3. 今般の長期目標と金融政策戦略に係る主な改定ポイント2点本題に入る。Fedがデュアル・マンデートの達成に向けた道筋として公表する指針が「長期目標と金融政策戦略:longer-run goals and monetary policy strategy」(2020年8月改定)である。また、今般の改定の契機について、パウエル議長は足もとの4つの変化「1.潜在成長率の低下 2.世界的な金利の低下 3.(コロナ禍以前は)記録的な景気拡大から失業率が大きく低下していたこと 4.(雇用が記録的に好調でも)インフレ率が2%に届かなかったこと」を挙げた。今般の指針改定のうち、Fedのデュアル・マンデートにも掲げられている雇用および物価の2点にポイン ファイナンス 2020 Dec.45連載海外経済の 潮流

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