ファイナンス 2020年12月号 No.661
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IMFの財政報告書(2020.10.14)*29は、わが国の政府債務が、今年、GDP比で266%に膨らむと予測している。これは、先の戦争の終結時の204%を大きく超えるものである。先の終戦時の204%の政府債務は、そのほとんどがインフレによって帳消しにされた。しかしながら、今日、そのようなことが許されるとは思われない。となると、このままでは2060年には国民は、今日よりもさらに巨額になっている政府債務を、今日のどの西欧諸国よりも大きくなっている国民負担の下で縮小させていくという困難な作業に直面させられることになる。その時の国民の負担を、少しでも軽くするために今の国民に求められるのは、経済の成長力を強化しつつ財政の健全化にも取り組んでいくことであろう。明治維新期には、まずは地租改正という大増税で経済成長のための財源確保が行われた。明治維新では、坂本龍馬が活躍し、勝海舟が西郷隆盛との間で江戸城の無血開城を実現したら、すぐに文明開化の経済成長が始まって、人々は豊かになったと思ってい*29) 同報告書は、2020年の世界全体の政府債務が、世界の国内総生産(GDP、約90兆ドル)にほぼ匹敵する規模になると予測している。*30) 大久保利通は、明治11年5月14日、暗殺される朝、以下のように述べていた。「明治元年ヨリ十年ニ至ルヲ第一期トス.兵事多クシテ則創業期間ナリ.十一年ヨリ二十年ニ至ルヲ第二期トス.第二期ハ尤肝要ナル期間ニシテ内治ヲ整ヒ民産ヲ殖スルハ此時ニアリ.利通不肖ト雖モ、十分ニ内務ノ職ヲ尽サンコトヲ決心セリ.二十一年ヨリ三十年ニ至ルヲ第三期トス.三期ノ守成ハ後進賢者ノ継承修飾スルヲ待ツモノナリ」。*31) 財政構造改革会議を取り仕切った与謝野代議士が、筆者に勧めたのは、フランス革命の時代、日々の戦いを生き抜いた政治家について書かれた「ジョセフ・フーシェー ある政治的人間の肖像、シュテファン・ツワイク、岩波文庫、1979)」であった。*32) コロナ民間臨調報告書(小林喜光前経済同友会代表幹事委員長、2020年10月)には、「泥縄だったけど、結果オーライだった」との官邸スタッフの言葉が紹介されている。*33) 財務省の資料を基に、日本を含めて各国の年次を出来る限り直近のものとしている。スウェーデンについては1995年を加えて2018年までの間を矢印で結んでいるが、それはスウェーデンが経済成長を実現して国民負担率を下げてきたことを示すためである(日本経済新聞、経済教室、2019.11.1参照)る人が多いが、それはテレビドラマの中での話である。実際には、大久保利通のリーダーシップの下、全国各地で筵旗が立つような反対を乗り越えた大増税で財源を確保して、初めて目を見張るような経済成長が実現したのである。その大久保は、暗殺された*30。これから、我が国のリーダーが立ち向かわなければならない財政危機克服と経済成長の実現という二つの課題は、極めて困難なものだということである。そのリーダーシップを支える財政関係者の責務もまた極めて大きいというべきであろう。たちまち求められるのは、長期戦の覚悟であるが、長期戦は日々の戦いの積み重ねである*31。そして、民主政治の下、そのような戦いを支える原点は国民の理解である。本稿をスタートした5月時点で世界最下位とされていた新型コロナ・ウィルス対応についてのわが国の国民からの評価は、その後いく分変化を見せている*32。日々の対応によって変化していったのである。*33図表2 OECD諸国における社会保障支出と潜在的国民負担率の関係*33オーストラリアオーストリアベルギーチェコデンマークエストニアフィンランドフランスドイツギリシャハンガリーアイスランドアイルランドイスラエルイタリア韓国ラトビアルクセンブルグオランダノルウェーポーランドポルトガルスロバキアスロベニアスペインスイス英国米国スウェーデン(2018)日本(1955)日本(1990)日本(1995)日本(2018)日本(2060)456789101112131415161718192021222324252627282930313233343515202530354045505560潜在的国民負担率(対GDP比)一般政府の社会保障支出(対GDP比)(%)(%)(出典)潜在的国民負担率:OECD “ National Accounts”、“Revenue Statistics”、内閣府「国民経済計算」、等。社会保障支出:OECD “ National Accounts”、内閣府「国民経済計算」。(注1)数値は、一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの)ベース。ただし、潜在的国民負担率に用いる日米の財政収支には社会保障基金を含まない。(注2)日本は、2018年度まで実績、諸外国は2018年実績(韓国、ルクセンブルグについては2017年度実績。オーストラリアについては2016年実績。)。(注3)日本の2060年度は、財政制度等審議会「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」(平成30年4月6日起草検討委員提出資料)より作成。13530252015105スウェーデン(1995) ファイナンス 2020 Dec.25危機対応と財政(最終回)SPOT

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