ファイナンス 2020年12月号 No.661
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危ぶまれる状況にまで陥った。日本は、G20の前議長国、そして、第1回G20財務大臣・保健大臣会議の開催を含め、国際保健の議論を主導してきた立場から、議長国サウジアラビアを支え、水面下で各国と意見調整する等、共同声明の合意に向けて精力的に貢献した。ぎりぎりの調整が大臣会議当日の9月17日まで続けられた後、大臣会議がオンライン形式で開催された。日本からは、麻生財務大臣と田村厚生労働大臣が出席し、前年のG20議長国として、各国に先駆けて議長から指名を受け、発言した。麻生大臣からは、(1)新型コロナ感染症の危機に際し、G20として力強いメッセージを世界に示す必要があること、(2)ワクチンと薬に、世界の誰もがアクセスするため、その開発のみならず、途上国における製造や普及を含めた包括的な取組が必要であり、特に特許利用の推進が重要であること、(3)感染症の抑制と経済回復の両立のためには、昨年の日本議長下で合意したUHCの推進が不可欠であること、について発言した。田村厚生労働大臣からは、(1)経済活動の再開と新型コロナ感染症の制御を両立させるためには、医薬品、医療機器、人材、質の高い医療制度、持続可能な保健財政が必要であること、(2)これらの要素は、UHCを推進するために各国が追求しているものであり、今回のパンデミックは、UHCの重要性を再認識する機会となったこと、等を指摘した。その後、各国の財務大臣と保健大臣のほか、世界銀行、IMF、WHO等の国際機関の長も発言し、現下のパンデミックへの対応や今後の備え等について活発な議論がなされた上で、最終的に共同声明を採択するに至った。共同声明では、新型コロナ対応に係るワクチン・薬について、開発・製造・普及に向けた包括的な取組の重要性を確認し、その一環として日本が提唱する特許プールへの支持が示された。また、UHCへの取組を通じた感染症への備えと対応の向上が持続的な経済成長に不可欠であり、UHCへの投資が成長戦略としても重要であるとの理解が広がり、昨年の第1回合同会議で確認した「途上国におけるUHCファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解」へのコミットメントを再確認した。5終わりに本会議の成果は、新型コロナウイルスによるパンデミックに対応するためのG20行動計画の一部として取りまとめられ、10月の財務大臣・中央銀行総裁会議で合意した後、11月のG20首脳会議に提出されることとなった。行動計画には、財務大臣と保健大臣が引き続き協働していくことも明記されており、日本議長下で初めて開催された財務大臣・保健大臣会議はG20の新たなスタンダードとして定着しつつある。2021年のイタリア議長下のG20を始め、今後も様々なチャネルを通じ、UHCに関する共通理解の実践を含め、更なる議論と取組が進展するよう貢献していきたい。舞台裏共同声明を作り上げる工程では、まず、G20議長国サウジアラビアがたたき台を作成し、それに対し各国からコメントを受け付ける。その上で、各国が合意可能な最大公約数を少しでも広げる努力をしつつ、議論の収斂を目指す「ドラフティング」という作業が行われる。大臣会合の直前に行われる代理級会合では、このドラフティングのプロセスにG20各国の財務当局と保健当局の代表の他、国際機関の代表も出席するため、総勢50名以上のコンセンサスを得る必要があり、その調整は一筋縄ではいかない。加えて、今回の会議は新型コロナ感染症の流行に伴いオンラインによるテレビ会議形式で行われたため、世界各国の関係者が時差を超えて作業にあたった。日本時間では深夜におよぶ非常にハードな交渉となったが、粘り強い折衝の結果、成果文書案がまとまった際の感動はひとしおであった。(参考:G20財務大臣・保健大臣合同会議  共同声明仮訳 抜粋)・パンデミックを克服し世界経済の回復を支援する鍵となる、全ての人々への公平かつ手頃なアクセスを支援する目的の下、新型コロナウイルスの診断法、治療薬及びワクチンの研究、開発、製造及び分配を加速させるため、「新型コロナウイルス対応ツールへのアクセス加速事業(ACT-A)」とその下のCOVAXファシリティー、また知的財産権に係る自主的なライセンス供与の取組を含め、世界的な対応を行う必要性と共同の行動を推進する重要性を強調する。・「途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ファイナンスの重要性に関するG20共通理解」に対する我々のコミットメントを改めて強調する。 ファイナンス 2020 Dec.19第2回G20財務大臣・保健大臣合同会議について SPOT

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