ファイナンス 2020年12月号 No.661
18/98

般の合意期限の半年間の延長を受け、ルメール仏経済・財務相は、2020年12月にデジタルサービス税の徴収を再開すると発言しており、今後の動向に注視が必要な状況である。同様の一方的措置を導入・検討する国も増えているが、前述のとおり、こうした一方的措置は世界経済に悪影響を与え、また、各国の措置内容が区々であることから企業のコンプライアンスコストも増大するなど、一方的措置の拡大は望ましくなく、早期の国際的な合意が重要である。また、2019年12月に、米国のムニューシン財務長官は、「第1の柱」を企業の選択制(「セーフハーバー」)とすることを提案する内容の書簡を公表した。これに対し、多くの国が懸念を表明した。更に2020年6月、同長官が欧州4か国(英、仏、伊、西)の財務大臣に向けて、第1の柱に関する議論を一時中断し、年後半に議論を再開することを提案する書簡が報道され、米国と欧州との対立が先鋭化することが危惧されたが、7月のG20において、合意に向けたコミットメントを再確認する声明を公表し、こうした状況は沈静化した。しかし、米国はこの「セーフハーバー」に関する提案を取り下げておらず、第1の柱における最も重要な政治争点の一つとなっている。6結語日本はBEPSプロジェクトを主導してきた経緯があり、国際的な議論をリードする役割が期待されている。課税という国家主権の根源に関する議論であり、交渉には困難を伴うが、合意が実現されれば、国際課税の分野だけでなく、世界経済全体にとって大きな成果となる。引き続き、国際的な合意に向けて積極的に議論に参画していきたい。(番外編)オンライン交渉の実態感染症の影響を受け、オンラインによる国際交渉も定着しつつある。「青写真」の取りまとめの直前は、連日(日本時間では「連夜」)、オンラインでの議論が行われた。従前は、当然ながら出張者のみが会議に参加していたわけだが、オンライン開催は、これまで出張に行くことが少なかった多くの担当者・関係者の参加・傍聴を可能にした。コーヒーブレーク等を使った各国との議場外のやり取りができない不便さはあったものの、「会議での議論の雰囲気がよくわかった」という同僚の声も多く聞かれた。経済のデジタル化に伴う課税上の課題:影響評価(2020年10月)○OECD事務局は解決策に係る影響評価(インパクトアセスメント)を公表○一定の仮定の下、世界全体の税収は、最大で年800億ドル程度増加すると推計(米国外軽課税無形資産所得(GILTI)税制を含めると最大約1000億ドル(世界の法人税収の約4%相当))○第1の柱による税収増加は小幅なものにとどまるが、第2の柱についてはより大きな税収増(下図参照)経済のデジタル化に伴う課税上の課題:影響評価(2020年10月)所得グループごとの税収への影響(注)当該報告書には上記の他、解決策に合意できず、欧州諸国等で導入が見られる暫定的措置が未導入の多くの国に拡大し、貿易紛争が増加する場合、世界全体で最大1%を超えるGDPの押下げ効果がある等の分析も含まれる。(試算における仮定)第1の柱全世界売上閾値:7億5000万ユーロ(約900億円)、みなし通常利益率:10%、市場国への配分比率:20%第2の柱最低税率:12.5%、支払給与及び減価償却費用の10%の適用除外※米国は、GILTI(米国外軽課税無形資産所得)税制と第2の柱が共存するという仮定の下、第2の柱の高所得国グループから除外第1の柱による税収増減(%)第2の柱による税収増減(%)-1.0%0.0%1.0%2.0%3.0%4.0%高所得国グループ中所得国グループ低所得国グループ-1.0%0.0%1.0%2.0%3.0%4.0%高所得国グループ中所得国グループ低所得国グループ14 ファイナンス 2020 Dec.経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応:青写真(Blueprint)の公表 SPOT

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る