ファイナンス 2020年12月号 No.661
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1問題の所在経済のデジタル化が進展する中、現行の国際課税の原則が十分に機能しなくなっている。この原則とは具体的には、(1)「PE(Permanent Establishment:恒久的施設*1)なければ課税なし」、(2)「独立企業原則」に基づく利益配分ルール、のことを指す。・(1)については、外国企業の事業所得については、PEがある場合にのみ課税できる、という原則である。これは国際連盟の時代に淵源を有する原則の一つだが、経済のデジタル化の下、事業を行う上で必ずしも物理的拠点を必要としないデジタル企業等に対して、市場国において十分に課税ができないという状況が生じている。・(2)については、多国籍企業グループ間の国際的な取引について、その取引価格を、独立した企業同士であれば成立していたであろう「独立企業間価格」で取引が行われたものと見なして、各グループ企業の所得を計算する原則で、多国籍企業の課税利益を各国間で配分する機能を持つ。この原則についても、経済のデジタル化が進む中で特許やブランドなどの「無形資産」の価値が高まっており、適正な「独立企業間価格」の算定が困難になっているという背景がある。また、経済のデジタル化により多国籍企業グループ内の無形資産の移転が容易になる中で、低い法人税率や優遇税制を有する軽課税国へのBEPS(Base Erosion and Prot Shifting:税源浸食と利益移転)リスクが増大していることも課題となっている。現在、前段の国際課税原則の見直しである「第1の柱*1) 工場や支店などの物理的拠点のこと。*2) 「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に係る中間報告書」*3) 「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画」*4) 「第1の柱の統合的アプローチに係る制度の大枠と第2の柱の進捗報告書」(Pillar 1)」、後段の軽課税国への利益移転への対応である「第2の柱(Pillar 2)」の2つの柱により構成される解決策が検討されている。2検討の経緯経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応は、2012年に始動したBEPSプロジェクトに端を発するが、特に、2015年10月のBEPS最終報告書の行動1において、法人課税について2020年まで作業を継続することとされて以降、OECDやBEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)、G20など国際的なフォーラムにおいて本格的な議論が行われている。2018年3月の「中間報告書*2」において、2020年までにコンセンサスに基づいた解決策の取りまとめに向けて作業を進めることに合意し、2019年6月、我が国がG20議長国として取りまとめた「作業計画*3」において、解決策の論点と今後の検討作業を示し、2020年1月には「制度の大枠と進捗報告書*4」を公表し、2020年末の合意に向けて検討が進められていた。こうした中、2020年10月、約140の国・地域で構成されるBEPS包摂的枠組みにおいて、第1の柱・第2の柱に関する「青写真」を取りまとめ、公表した。この青写真と同時に公表されたステートメントにおいては、コンセンサスの構築に向けて大きく進展しており、青写真は「将来の合意のための強固な土台」であるとしつつも、新型コロナウイルス感染症等の影響もあったことから、合意期限については、2021年半ばへと約半年間延期された。同内容は、その後のG20でも支持された。経済のデジタル化に伴う 国際課税上の対応: 青写真(Blueprint)の公表主税局参事官室 主税企画官 宇多村 哲也/主税局参事官室 参事官補佐 今岡 植10 ファイナンス 2020 Dec.SPOT

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