ファイナンス 2020年12月号 No.661
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山梨県の気候・風土はぶどう栽培に適しており、ぶどうの着色は良く、秋の冷風が糖度をはじめとする品質全体に良い影響を与えている。甲州ぶどうを原料とした白ワインは、香り豊かで口中で穏やかな味わいを感じることができ、辛口の甲州ワインはフルーティーな柑橘系の香りと、はつらつとした酸味がある。マスカット・ベーリーAを原料とした赤ワインは、鮮やかな赤紫色の色調を有し、甘さを連想させる華やかな香りと穏やかな渋味がある。北海道のぶどう栽培地では、4~10月の日照時間が1,100時間以上と長く、気温の日較差が大きくなるため、糖度の高いぶどうが収穫できる。また、ぶどう生育期は総じて冷涼な気候であり、有機酸を豊富に含有する。さらに、ワイン製造業者の独自努力や道産ワイン懇談会の活動によって豪雪・厳寒などの気候に対応した栽培方法が確立されているほか、北海道の自然環境に適応したヤマブドウ種やハイブリッド種といった耐寒性品種の開発が積極的に行われている。三重県の夏季は太平洋を流れる黒潮の影響により温暖な気候であるが、冬季には北東から紀伊山地や鈴鹿山脈を越えて「鈴鹿おろし」や「布引おろし」と呼ばれる乾いた寒冷な風が吹き、冷涼な気候となる。特に、比較的内陸部にある伊賀盆地では気温差が大きい。また、鈴鹿山脈に冬季に降り積もった雪や、日本屈指の多雨地帯である紀伊山地に降り蓄えられた雨水が、醸造に適した優良な水となって三重県全体に豊富に供給される。このような気候や豊かな水資源により、三重の暖かみがあり芳醇な酒質が形成されている。食材の臭みが爽やかな酸味により覆い隠されることから、特に貝類や甲殻類などと共に食中酒として楽しむことができる。近年では、三重県工業研究所とも協力し、独自の清酒酵母の開発に取り組むなどの研究活動も活発に行っている。白山の清酒は総じて、米の旨みを活かした豊かな“こく”を持つ。その中でも、純米吟醸酒・吟醸酒は、穏やかな果実様の香りとほどよい酸味がある。石川県白山市は、1,300年以上も前から信仰の対象となっている霊峰白山を水源とする手取川扇状地にあり、豊かな伏流水に恵まれている。この水はカルシウムを多く含み、カリウムが少ないことから、酒造りの過程において穏やかな発酵をさせる一方で、米の溶解が促されることにより、米の旨みが引き出され、豊かなこくのある白山特有の酒質が形成されてきた。白山の清酒は、古くから「菊酒」の伝統と歴史に培われている。「菊酒」とは、古来は菊の花びらを酒盃に浮かべたもの。平安時代に編纂された格式の一つである「延喜式」によると、平安期の宮廷では重陽の節句に菊酒を飲む風習があったとされる。平成17年には地域ブランド「白山菊酒」を立ち上げるなど、その特性の維持と品質の向上を図っている。GI「三重」認定酒発表会の様子(令和2年9月)。4「菊酒」の伝統と歴史を背景に米の旨味を引き出す「白山」菊と酒盃(菊酒)手取峡谷(白山市吉野)1豊かな酸味と果実の香り「北海道」5貝類や甲殻類などと共に食中酒として楽しめる「三重」2日本を代表する 甲州ぶどうの産地「山梨」ぶどう酒6 ファイナンス 2020 Dec.

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