ファイナンス 2020年11月号 No.660
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令和の再開発が示す街の未来像近現代にかけて熊本の市街地は再開発事業を機に発展してきた。令和に至り、練兵場、歩兵第23連隊の跡地が再び生まれ変わろうとしている。桜町地区市街地再開発事業だ。戦後、当地は県庁からバスターミナルになり、域内に百貨店があった時代も長かった。それが昨年一変、バスターミナルに複合商業施設、ホールなど様々な機能を備えたサクラマチクマモトに生まれ変わった。それより少し前、平成27年に肥後銀行の本店が新しくなり、周囲の風景が大きく変わった。練兵場跡地開発の南北軸となった道はシンボルプロムナードとなり、軸線上に熊本城を眺める歩行者向けの道になる。花畑公園など園地を組み合わせ、シンボルプロムナードと電車通りの間をオープンスペース化。辛島公園を含め周辺を一体的なエリアとする。「熊本城と庭つづき、まちの大広間」をデザインコンセプトに令和3年の完成を目指している。歩行者優先の新たな中心軸をつくることで、熊本の近代を代表する古町と現代の中心地の下通りがその両翼となる。言い換えれば中心軸をつくることで両者が一体化することになる。路線価に現れる上乃裏通りの再生現在の古町はマンションが林立する都心の住宅街の印象だ。解体を免れた歴史的建造物が点在するのも趣を高めている。住まう街として中心街とは違った魅力がある。最後に、熊本で見られる市街地の再生事例として「上乃裏通り」についても触れておきたい。下通りの電車通りを挟んで向こう側にある上通りは、、下通りと同じく中心商店街を形成している。途中まではアーケード、その向こうが並木道になっている。「上乃裏通り」はその一筋東の道で、その名の通り上通りの表通りに対する裏通りの意味あいだ。ここには以前から古い民家や倉庫、旅館が建ち並んでいた。中には築100年以上の建物もあった。こうした古い建物をリノベーションした雑貨店、ブティック、カフェ・レストランが増えてきた。店が店を呼ぶかたちで個性的な店が少しずつ集まってきて、いつの間にか若者の支持が高いファッショナブルな通りとなった。興味深いのは、並行する上通りとアーケードが途切れた先につづく並木坂通りの路線価が下落傾向にあったときに上乃裏通りの路線価は上昇していたことだ。どちらも上昇傾向にある直近10年を比べてみても上通り、並木坂通りの伸び率が約4割なのに対し、上乃裏通りは約8割と上回っている。街の再生は路線価にも現れている。街づくりのヒントとして考えれば、路線価は街づくりの成否を示すということだ。老朽化を逆手に取った戦略の妙だが、伝統的な一等地の下通り、上通りに比べれば家賃水準が低く、新規開業のハードルが低いことも一因だろう。旧来のしがらみがないことも新規参入には有利にはたらく。また、郊外にせよ都心にせよ商店街に対するショッピングセンターの強みは一定のコンセプトで統一され整然とした売り場と、顧客ニーズないし売上成績を反映したテナント入れ替えだ。他方、自然発生的な商店街にはそうした統制がない代わりにある程度の自由が利く。言い換えれば個性の強い店でも生き残れる。郊外の商業集積におされがちの中心市街地だが、裏通りならではのポジションを獲得し新しい店が次々開店する上乃裏通りを歩くたび、郊外にはない新たな役割があることを認識させられる。図4 上乃裏通り(出所)平成29年3月に筆者撮影プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。専門は地域経済・金融 ファイナンス 2020 Nov.73路線価でひもとく街の歴史連載路線価でひもとく街の歴史

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