ファイナンス 2020年11月号 No.660
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JICAだけでは教えられませんので、日本中の70~80ぐらいの大学に協力していただき、何人かずつ受け入れていただいております。我々のターゲットは途上国の若手の官僚です。いい人材を日本に連れてきて、日本で勉強してもらう。日本の成功、失敗、どういうふうに教育政策を広げてきたか、公害対策はどう行ってきたか、そんなことを勉強してもらうのです。きっとあなたの国の発展に役に立ちますよ、と。彼らはきっと親日家になってくれるのです。そして日本の大学でも、もっといろいろな先生に外国語で授業をし、そして外国人とつき合ってほしいのです。JICA開発大学院連携事業のこうした講義は、大学院の修士課程で、英語でやっています。難点は、日本について英語で話せる専門家が少ないということです。そのため、放送大学とJICAとで組んで番組を作りました。私も、田中明彦さんも、白石隆さんも講師をしています。「日本の近代化を知る7章」という英語の番組を去年作り、今年、さらに増えて15章になります。ウ. JICA日本研究講座設立支援事業(JICAチェア)こうした取組を日本でやっていると、外国の方は「それは面白そうだから、うちでもやりたい」と言われるようになりました。初めは、ヨルダンの王様でした。アラビア語訳はうちで作るから、ヨルダンで放送させてくれないかと言われました。我々はそれに刺激を受けて、世界の100の国にJICA Chair for Japanese Studiesという、JICAが主催する日本研究の小さなユニットを作るという取組を始めました。日本について勉強したいという人がいる時に、現地ですぐに学べるようにするべきだと考えています。このユニットは非常に簡単です。例えば、ある国のトップクラスの大学を選ぶ。ルワンダだったら、ルワンダ国立大学というのがあります。そこに日本研究の講座を作ってもらう。講座では、海外協力隊が日本語を少し教える。それから、日本について英語で書かれた本を200冊寄附する。また、「日本の近代化を知る7章」のビデオ、将来的にはもっと増やしますが、それを置いていつでも見られるようにする。そして、そこに日本について英語で話せる人を1週間程度派遣して何度か授業をしてもらい、学生と交流する、ということを年に2回程度やる。その事務はJICAの事務所が担当する。そうすると、1カ国1,000万円以下で出来るのです。これで、日本のプレゼンスをもっと打ち出そうと考えているわけです。エ.外国人受入れ促進それから外国人受入れ促進に対する協力です。外国から来た人が、日本に来て、仕事をしてお金を稼いで、日本にいてよかったと思って帰ってもらわなければいけないので、何か困ったらいつでも相談に乗る部署、組織が必要になります。私は、日本の主な自治体には、そのような人を配置しておいて、何でもすぐ対応できる、多言語で対応できる、という仕組みを作っておくべきだ思うのです。そのコアになれるのは、多分JICAの職員ではないかと思うのです。このことを昨年の暮れ頃に菅官房長官に申上げたところ、官房長官はポジティブに反応してくださって、徐々にこれを進めています。オ.世界保健医療イニシアティブ(仮称)JICAにとって最近一番の話題といいますか、私が打ち出しているのは「世界保健医療イニシアティブ(仮称)」というものです。我々は世界でいろいろなことをやっていますが、医療、保健の分野では、どちらかというと予防が中心でした。母子手帳、栄養、それから手を洗うなどです。これも大切ですが、現在は治療にも取り組んでおり、現にいろいろなところに病院を作っています。一番古いのは、後藤新平が台湾に作った医学部および附属病院です。後藤は、そのあと満州にも病院を建設しています。戦後は、日中友好医院というのを北京に、60年代には、ベトナムのサイゴンに病院を作りました。これらの病院は体制の転換を超えて、現在も立派に機能しています。このように、病院というのはインパクトが大きいものであります。かつ、企業が経済活動をするときに困るのは、病気になったときにかかる病院がないことなのです。我々の計算では、中規模ぐらいの病院なら50億円68 ファイナンス 2020 Nov.連載セミナー

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