ファイナンス 2020年11月号 No.660
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るのですが、原因の究明、復興計画の策定というところになり「ここはJICAにお願いしたい」とインドネシアが言ってきたのです。だから、日本が引き受けました。そのような信頼関係ができているのです。ウ.海外協力隊海外協力隊も大変評価が高いのです。現在、新型コロナウイルス対策のため彼らは日本に引き上げて仕事がないという状況で、我々も苦慮しています。その中で、国内での支援活動をしたり、あるいは、彼らのパワーアップのために大学院に行ったり、遠隔で海外への支援をしたりということをやっているのですが、なかなか大変です。彼らの中にはコロナが一段落したらまた行きたい、という人が9割ぐらいいて、まだ士気は高いのです。海外協力隊の活動はいろいろなところで行ってきていますが、戦後始まった頃は、例えば、フィリピンに行くと「日本人だ」と言って石を投げられたそうです。そこをずっと苦労して、水も電気もないところで、現地の言葉を話して入り込むということを続けてきており、そうした姿勢はやはり評価されております。(6)「質の高い成長」の具体例「質の高い成長」の方は先ほども申し上げたように、インクルーシブで、サスティナブルで、レジリエントである、ということを打ち出しているのですけども、その中にもいろいろあります。まずはチリの鮭です。JICAが養殖のための基礎技術を伝えたのです。それから、ブラジルのセラード開発です。荒野を開発し、大豆がたくさん取れるようにしました。また、インドのデリーメトロというのが面白い例です。デリーに地下鉄を作った、その結果、一種の小さな文化革命が起こりました。それは、インド人が地下鉄に乗るために行列を作るようになったのです。インド人は、電車が来たら、押し合いへし合い、屋根の上まで上るというのが典型的なイメージだったのですが、今はそれはやりません。なぜなら、3分後に電車が来るということがちゃんと表示されますから。何もそんなことはしなくていいのです。インドネシアでも昨年地下鉄が走り出しました。我々は都市交通には前向きです。なぜかというと、都市交通というのは、まさにインクルーシブな発展を促進するものだからです。途上国の欠点は、下手をすると、お抱え運転手付きの超金持ちと、めちゃくちゃなバスに乗っている庶民に分かれてしまうことなのです。地下鉄というのは、まさにその間の中産階級を後押しするものなのです。しかも、地球温暖化対策としても良い効果を持ちます。ただ、インフラ整備は下手をすると、価格の高いインフラを無理やり輸出するということが出てきます。これはいかがなものかと思っています。そこで私は、インフラ輸出に関して、「相手国の発展に本当に役立つ」、「相手国と日本との関係強化に役立つ」、「日本の企業や経済にとって利益がある」、「JICAの財務にとって過大な負担にならない」という4つの原則を立てました。これらの原則に即して、日本の国益である信頼を損なわないようにしていくべきだと思っています。(7)JICAの重点的取組JICAが今、重点的に何をやっているかということをお話しさせていただきます。ア.中小企業の海外展開支援日本の多くの企業は中小企業であり、大体地方にあります。このうち良い技術や何かを持っている企業と海外のニーズをくっつけるお見合いをJICAはやっています。これは越川前副理事長が精力的に取り組まれたものです。イ.JICA開発大学院連携事業私が力を入れてやったのは、JICA開発大学院連携事業というものです。今、世界で開発学の本場はどこか、というと、一応イギリスということになっているのですが、やはり途上国としては、途上国から出発して苦労した日本に来て学ぶのがいいのではないか。留学生に日本に来てもらい、主専攻は金融論でも、国際政治でも、農業でも、防災でも何でもいい、ただ、カリキュラムのうちの1割ぐらいは、日本の近代化の勉強をしませんか、ということで、留学生受入れの仕組みを作っています。 ファイナンス 2020 Nov.67夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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