ファイナンス 2020年11月号 No.660
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争は平和的に解決される、そうした国際秩序を維持することが一番の国益だということです。そのために、うちに閉じこもるだけではなくて、もう少し外に出て、いろんな協力をしようではないか、ということです。そのときに念頭にあったのは、より積極的なODAと、より積極的なPKOと、より積極的な外交活動、この三つです。(2)ODA実績ODAの実績は、皆さん御承知のとおり、計算方法が変わったものですから、2018年以降少し浮上しまして、GNI比0.28%になっています。ただ、DAC(OECD開発援助委員会)加盟国の平均(0.31%)よりはずっと少なく、目標の0.7%にははるかに及びません。(3)JICAのビジョン開発協力大綱を具体化していくため、私はJICAのビジョンを「信頼で世界をつなぐ」と改めました。JICAのアプローチは、他の国のドナーと比べて、顕著な特色があります。それは、相手の国とよく相談して、何がいいかを一緒に考え、それを共にやる、協力の姿勢です。少し時間をかけても、対等に相手と協力することであり、上から下への援助や支援とは異なる姿勢です。途上国の人は差別されることに敏感です。日本というのは、あまりそのような差別をしない国だ、という好感を持ってくれているので、これだけで我々にとっては、大分プラスの材料で、金額の少なさを補っていると思っております。こういうアプローチの基礎にあるのは相互信頼です。「信頼で世界をつなぐ」というのは、ただ空想的な絵空事を持ってきたのではなくて、我々の実績に照らして、これを我々の指針にしようということに決めたわけです。(4)「人間の安全保障」と「質の高い成長」我々のミッションは、大きく分けて二つ、「人間の安全保障」と「質の高い成長」です。「人間の安全保障」は、実は曖昧なコンセプトでありまして、議論の分かれるところですが、全ての人間は尊厳を持って生きる権利がある、恐怖や欠乏から自由になって生きていく権利がある、それをみんなでサポートしよう、というものです。これは非常に崇高な理念だと思います。我々は、それを基礎にしております。もう一つは「質の高い成長」です。「質が高い」とは、少し分かりにくいですが、インクルーシブ(Inclusive)で、サスティナブル(Sustainable)で、レジリエント(Resilient)なものだという意味です。インクルーシブ、つまり成長の結果、すごい格差ができるようなものを我々はしたくない。より平等主義的な発展に協力したい。サスティナブル、あるときボン、と伸びるけれども後が続かないということもしたくない。そしてレジリエント、各種災害や緊急事態に対応できるような、自らの脆弱性を低減できるような能力を身に付けさせる協力をしたい。このような「質の高い成長」を実現するというのが、我々の狙いです。(5)「人間の安全保障」の具体例最近、JICAとしては「人間の安全保障」のほうに、やや力を入れているつもりです。ちょうど去年はTICAD(アフリカ開発会議)もあったものですから、それを打ち出しています。ア.ミンダナオの平和と開発尊厳を持って生きる権利はどこから始まるのか。一番最初は戦争をやめる、紛争をやめる、人が死ぬのをやめる、そこから始まるわけです。例えば、我々が方々で説明するのは、ミンダナオ和平です。長年にわたって、モロ・イスラム解放戦線とフィリピン政府の間に紛争が続いていました。それを我々はずっと辛抱強く対話を続けて、現場レベルで両者が和解するようなプロジェクトを進めてまいりました。イ.防災(強靭な社会づくりへの協力)次は、防災です。インドネシア・スラウェシ地震というのが2年ほど前にありました。その時は、みんな緊急支援で駆けつけ、インドネシアはそれを受け入れ66 ファイナンス 2020 Nov.連載セミナー

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