ファイナンス 2020年11月号 No.660
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は、何億人という人口を持っていないと、なかなか発言権がありません。私は、ヨーロッパにEU(欧州連合)があり、アフリカにAU(アフリカ連合)があるのなら、日本からフィリピン、インドネシア、ベトナム、それから、太平洋島嶼国、うまくいけばオーストラリア、ニュージーランド、こういう国々が加わった太平洋連合あるいは、西太平洋連合というものを将来的に作ることを日本は念頭に置いたらどうかと思っています。私は、EUの一番の成果は外交政策の統一だと思っています。EUは、国際政治の舞台において、いろいろな案件についてEUのコモン・ポジションを打ち出し、それと同時に、イギリスやフランスも自分の立場を言う。つまり、我が国はEUのポジションに完全に同意である、さらにつけ加えるとこういうことが言える、といった発言をするわけです。大枠をすり合わせるのがEUの非常に大きな成果であると考えますと、私は、大陸から少し離れたフィリピン、インドネシア、これに中国に対する警戒感のあるベトナムをくっつけて、さらに、ミャンマーを加え、マレーシア、できればシンガポールも共に取り組む。少し難しいのは、ラオス、カンボジアかなという気がいたしますが、このラオス、カンボジアといえども、長年の経済協力のおかげで、国民は非常に親日的です。こうした国々とは、実はそんなに対話があるわけではないのです。ASEANとの金融方面の対話は非常に多くありますが、ドイツ、インドなどと比べると、政治全体を通じていつでもすぐ会って話ができる関係というのは、まだありません。そうした関係がないことには理由があって、テクノクラート(技術官僚)はいるのですが、自由にビジョンを語れるような人たちはあまりいなかったのです。それがだんだんできるようになってきました。例えば、亡くなってしまいましたけども、タイのスリン・ピッスワン氏(元タイ外相、元ASEAN事務総長)には、政策研究大学院大学(GRIPS)で授業を受け持っていただいたり、諮問委員にもなってもらい、年に何度か来日して、そのたびに白石隆さん(前GRIPS学長)や田中明彦さん(現GRIPS学長)と一緒に会食して、意見交換をするというようなことをやっておりました。こういうことが頻繁に起こるような、しかもオンラインでやればいつでもできますし、現に直接会うのだって、週末にバリ島で集まろう、というようなことが簡単にできるような関係を作って強化していくことが必要だと思います。(2)梅棹忠夫「文明の生態史観」この発想の根っこは、古くは梅棹忠夫先生の『文明の生態史観』という本にあります。50年代に出たもので、梅棹先生の議論は「日本はアジアだ、と盛んに言うけれども、コンティネンタル・アジアとは非常に違う」というものです。コンティネンタル・アジアは、強大な帝国が生まれ、その結果、国民に自由はないところだとしています。ところが、沿岸部では封建制があり、封建制では封建領主の競争の隙間に自由がある。また、海に逃げることもできるわけで、それができているという共通性を持っているのは、日本と西欧だと彼は言ったのです。西欧と日本はそうした共通性があるとしているわけです。ですから、日本はアジアの一員として中国と似ているというよりは、ユーラシア大陸の沿岸部にある地域として、むしろ西欧と似ているわけです。この本が書かれた当時、東南アジアについては視野の外だったのですが、東南アジアの戦後の発展により、そうしたところに入る可能性ができつつあるのではないかと私は思っておりまして、その前提で太平洋連合とか、西太平洋連合ができればいいな、と考えております。5.JICAの取組(1)開発協力大綱以上を前提に、少しJICAの話をします。ODAの基本方針として、まず開発協力大綱(平成27年2月10日閣議決定)があります。「国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に一層積極的に貢献する」ということが開発協力大綱に書いてございます。この開発協力大綱は、国益という言葉が盛り込まれたことで話題になったものです。国益については冒頭でも触れましたが、日本にとっては、自由な貿易ができ、紛 ファイナンス 2020 Nov.65夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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