ファイナンス 2020年11月号 No.660
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3.国家のあり方(1)国家は残る、超国家機構は成立しない次に、国家のあり方について、私の考えを申しあげます。かつて、国連あるいはそれを発展させたような世界政府や、非政府団体や民間企業が力を持つといったノン・ガバメンタル・アクターズ、あるいは、スーパー・ガバメンタル・アクターズの可能性がよく言われましたが、「国家は残る、超国家機構は成立しない」というのが私の予測です。国家の定義は「軍事力」の正統的独占であり、また「警察力」、「徴税力」を持っていることです。普通の国民は、税金なんか取られたくない、警察に取り締まられるのも嫌だと思います。でも、警察とか軍隊とか、徴税組織があり、それらを担うことを国民が受け入れられる主体としては、やはり国家です。国連などがこれを担うことは受け入れられないでしょう。これは将来も変わらないものです。(2)国家のアイデンティティとは国家には国家たらしめるものが必要です。私は、国家のアイデンティティの礎は言語と宗教だと思っています。これはJICAに来てから特に痛感しています。例えば、ジョージアとか、アルメニアに行くと、彼らはもう何百年も海外に移民を送り出しているわけです。ところが、在外のアルメニア人とか、ジョージア人というのは、きちんとアルメニア正教やジョージア正教への信仰を維持しているのです。言語も維持しています。ところが、日系ブラジル人の場合、3世になると日本語を流ちょうに話す人は少なくなります。そのようなことでいいのだろうか、やればできるのではないか、と私は思うのです。今日、日本語はネットで読めるし、漫画やユーチューブもある。だから、これらを使えば日本語というアイデンティティのコアを維持することは不可能ではない、日本ももう少し努力したほうがいいのではないかと私は思うのです。宗教のほうは、日本にはジョージア正教、アルメニア正教のようなものはありません。代わりにあるとすれば象徴としての天皇制です。もちろん、明治国家における天皇制のようなものは困るのですが、もっと長い歴史の中にある天皇制は、今のような文化的な、もう少し軽やかなものです。ですから、皆さんがよく御存じのとおり、中南米、特にブラジル辺りへ行くと、日系人たちの皇室に対する信頼は大変なものです。同時に、日本に興味を持ち、関心を持ち、集まってくる人は、みんな日本人だと受け入れたらいいのではないかと私は思っています。ナチュラリストだったC・W・ニコルさんとか、ラモス瑠偉さんとか、ドナルド・キーン先生とか、国籍を取ろうが取るまいが、日本人だと私は思うのです。日本に愛着を持ち、日本文化に愛着を持つ人はみんな日本人だと。そのような人たちをみんな受け入れていくのがよいのではないでしょうか。昨年のラグビーW杯の日本チームが好例です。(3)優秀な政治家・役人をいかに確保するか国と国とが何もしなくてもみんなが仲良くしてくれるなんていうことはあり得ません。もちろん、なるべく軍事的な競争はしたくありません。文化的な競争は歓迎するし、経済的な競争は重要だと思うのですが、そのために必要なものは、有能なエリートです。有能な政治家、有能な役人、これをいかに確保するかということはとても重要なことです。どうやって確保するか、これは難しくていろいろなことが必要ですが、一般論だけを言っておくと、今の日本の状況は相当ひどい状況にあるわけで、将来国がどうあるべきかという大きなビジョンを考えて、それに向けて取り組むことが重要です。4.西太平洋連合を目指して(1) 太平洋島嶼国やASEAN諸国との関係強化私は将来的には、西太平洋連合、あるいは、太平洋連合というものを作ることを考えたらどうかと思っております。先ほど、国家は残る、と申し上げましたけども、国家というのは、最低でも人口が1千万人とか、2~3千万人あって初めて、一つのユニットになるだろうと思っております。さらに大国としてやっていくために64 ファイナンス 2020 Nov.連載セミナー

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