ファイナンス 2020年11月号 No.660
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめにご紹介いただきました北岡です。本日は、私がどういう考え方で国際協力機構(JICA)で仕事をやっているのか、そして、日本が現在置かれている地理的、歴史的位置から国際協力がどうあるべきだと考えているか、ということをお話しさせていただきます。2.自由で開かれたインド太平洋構想(1)国益とは最初に、自由で開かれたインド太平洋構想(Free and Open Indo-Pacic)の話から始めます。私は、いかなる政策を考えるときも、基礎は国益だと思っています。この国益という言葉は、戦後日本では非常に人気のない言葉でありました。しかし、国益という言葉が失われた結果、省益、社益、私益がはびこったわけです。全体として、日本の利益はどこにあるか、今生きている我々だけではなくて、将来まで見通した大きな日本の利益はどこにあるか、という議論がなされなくなったという問題があると思うのです。お世辞を言うわけではないですけども、このことを考えている人がいるとすれば、財務省です。それから外務省です。全体像を捉えていますからね。私は財務省の方々が大きな視野を持って活動されることを非常に期待しています。国益というのは、ばらして言えば、独立、自由、繁栄、安全、それから、良き伝統の維持・発展です。この点では、どの国も同じです。(2)日本の地理的・歴史的条件ただ、国益を具体化するときに問題になるのは、地理的・歴史的条件です。特に、日本の場合はどうかというと、東にアメリカ、北にロシア、西に中国という、それぞれが巨大な縦深性を持っている国があるわけです。縦深性を持っているということは、世界に少々動乱が起こっても、何とかやっていける国々です。日本は、資源、人口の規模などから考えて、1国だけでは一つの極になれない国です。この3国の中にあって、日本は非常に難しい位置にあるのです。かつて宇垣一成(日本の陸軍軍人、政治家)が「日本の東にアメリカ、北にロシア、西に中国がある。これらはいずれも横紙破りの国である。」と言っております。つまり、普通の外交の常識があまり通用しない国だとしています。これは、今日も変わりません。その中で、日本が自ら一つの極になろうとしたのが戦前の失敗であり、日本は一つの極になることを断念した、これが戦後の歴史の始まりです。しかし、そこでも北にロシア、西に中国、東にアメリカがあるのは同じです。しかも、近隣に非常に複雑な歴史を持った韓国、北朝鮮という国があるわけです。その中で、日本はアメリカと組むという選択肢しかないのです。(3)インドの覚醒とインド洋の重要性日本は、戦後、極になることは断念したわけですが、戦後の発展、復興を遂げていく中で、東南アジアの国々との関係が非常に強まっていったことは御承知令和2年8月28日(金)開催北岡 伸一 氏(独立行政法人国際協力機構 理事長)「今後の日本の国際協力」演題講師夏季職員 トップセミナー62 ファイナンス 2020 Nov.連載セミナー

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