ファイナンス 2020年11月号 No.660
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表4  賃上げを重視している企業グループとそれ以外の グループの平均値の比較単位:百万円、人変数平均tP(T<=t) 両側賃上げを最も重視(n=303)左記以外(n=946)一人当たり賃金5.786.44-2.650.0080キャッシュフロー-0.02-0.01-0.610.5412売上高(自然対数)9.309.50-1.430.1518従業員数(自然対数)5.625.71-0.760.4486資本金(自然対数)6.817.07-2.190.0289有利子負債比率0.750.82-0.250.8049労働装備率51.5551.160.010.9900労働生産性11.9522.12-1.430.1540製造業0.250.31-2.070.0388情報通信業0.060.10-2.260.0241他サービス業0.240.182.270.0236(注1)従業員数判断で「不足気味」と回答した企業のみを対象としている。(注2)業種については、該当業種が含まれている割合を示している。また、10%有意水準にて有意差がみられた業種のみ掲載している。(出所)景気予測調査及び法人企業統計より作成。4.まとめ本稿は、企業経営者に対して行ったアンケート調査である景気予測調査の個票を活用し、さらに企業の特徴を把握するため法人企業統計と接続して分析することで、企業の人手不足の状況と、人手不足対応として特に賃上げ意欲が高い企業の財務上の特徴について分析した。分析の結果、人手不足企業の方が、従業員数が適正と考えている企業よりも、賃上げを選択する割合が高いことが確認できた。さらに、人手不足企業のうち、企業経営者が従業員確保の取組みとして賃上げを選択している企業の特徴は、企業規模(資本金)が小さい企業であり、賃金の水準が比較的低い企業で、宿泊業、飲食サービス業、その他のサービス業等の業種が多いことがわかった。この結果については、人手不足企業の特徴として認識されている点をデータから裏付けたといえる。さらに、分析では、製造業や情報通信業といった業種では、人手不足であっても、賃上げ以外の対応策を取る企業が多いということがわかった。参考文献玄田有史編(2017)『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶應義塾大学出版会。厚生労働省(2019)『令和元年版 労働経済の分析』。嶋恵一(2017)「内部資金と投資―法人企業統計による企業規模別分析―」『フィナンシャル・レビュー』第130号、財務省財務総合政策研究所、28~48頁。内閣府(2019)『令和元年度 年次経済財政報告』。中村純一(2017)「日本企業の資金余剰とキャッシュフロー使途―法人企業統計調査票データに基づく規模別分析―」『フィナンシャル・レビュー』第132号、財務省財務総合政策研究所、27~55頁。橋本由理子(2020)「法人企業景気予測調査におけるトピック項目の調査結果について」Economic & Social Research(ESR)No.28(2020年春号)、25~26頁。労働政策研究・研修機構(2019)「『人手不足等をめぐる現状と働き方に関する調査(企業調査・労働者調査)』調査結果のポイント」、プレスリリース2019年9月18日。<補論> 重要度1~3位の分析について人手不足企業グループのうち「賃金(初任給を含む)の引上げ」を重要度1~3位のいずれかに回答した企業とそれ以外の企業を本稿と同様の方法により比較した。その結果、「賃金(初任給を含む)の引上げ」を選んだ企業グループの方が、それ以外の企業グループよりも、従業員一人当たり賃金の水準が低く、労働生産性が低いという結果が得られた。また、業種構成については、建設業が多く、情報通信業は少ないという結果が得られた。 ファイナンス 2020 Nov.59シリーズ 日本経済を考える 106連載日本経済を 考える

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