ファイナンス 2020年11月号 No.660
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の分析をさらに詳細に行うこととしたい。本稿の構成は以下のとおりである。第2節では分析で用いるデータについて説明する。第3節では分析結果を示す。第4節はまとめである。2.データについて本稿で使用するデータは、『令和元年(2019年)法人企業景気予測調査』7~9月期調査(期間:2019年7~9月*4)と『平成30年度(2018年度)法人企業統計調査』(期間:2018年度4月~2019年3月に決算期が到来した会計年度)の個票データである。データ全体の回答法人数は、法人企業景気予測調査が11,667社(回収率:82.4%)、法人企業統計調査が28,107社(回収率:76.2%)である。2.1  法人企業景気予測調査(以下、「景気予測調査」)について本稿の特徴は、企業経営者に対するアンケート調査である景気予測調査を用いて分析することにある。景気予測調査は、企業経営者に対して、毎回「従業員数判断」として各期末における企業の人手不足感をたずねている。また、令和元年(2019年)7~9月期調査では「今年度における従業員確保の取組」をたずねている。橋本(2020)と同様に、これらのアンケート項目を活用することで、企業の人手不足感とあわせて、各社の従業員確保への取組みを把握する*5。それぞれの具体的な質問項目は以下のとおりである。(1)「従業員数判断」について景気予測調査では、「従業員数判断」を毎回調査しており、各四半期末時点での従業員数の水準について、「不足気味、適正、過剰気味、不明」の4択から回答する形式となっている。ここから、回答企業の人*4) 調査時点は、2019年8月15日となっている。*5) 景気予測調査は、毎期同じ質問項目について継続的に調査を行っているほか、7~9月期調査で時勢に合わせた経済実態を把握するため新規に質問項目を設定するトピック項目を用意している。「今年度における従業員確保の取組」の質問項目は、令和元年(2019年)7~9月期だけ実施されたトピック項目であり、貴重な調査となっている。*6) アンケートでは、「3つ記入することが困難な場合には、2つ又は1つ記入してください」と記載されており、3つ以内を選択する複数回答となっている。*7) ここでいう従業員には正規・非正規の別は考慮されていない。*8) 法人企業統計と景気予測調査の接合の際には、同一年度の場合は両調査で共通に使用している法人番号をキーとして用いたが、本分析で使用するデータは両調査の実施年度が異なるため、前年度の法人番号が別の法人に付される場合がある。そのため、資本金が一定未満の法人については、法人番号に加えて法人の調査地域、資本金及び業種がすべて一致している法人のみを接合の対象とした。また、従業員数が0人の企業を除き、「今年度における従業員確保の取組」に回答があった企業を本稿における分析対象とした。*9) 業種については、企業数の少ない業種を集約している。「他サービス業」には、主に宿泊業、飲食サービス業、物品賃貸業、娯楽業、学術研究、専門・技術サービス業、その他のサービス業を含め、「他非製造業」には、主に農林水産業、鉱業、採石業、砂利採取業、電気・ガス・水道業を含めている。手不足感を把握することができる。(2) 「今年度における従業員確保の取組」について令和元年(2019年)7~9月期調査の「今年度における従業員確保の取組」は、表1にある10の選択肢のなかから重要度の高い順に3つを選択して回答する形式となっている*6。この回答から、回答企業はどのような手段で従業員を確保しようとしているのかを分析することができる*7。表1  質問「今年度における従業員確保の取組」への回答選択肢1.賃金(初任給を含む)の引上げ2.福利厚生の充実3.人材育成の強化4.採用要件の柔軟化5.正社員登用制度、多様な正社員制度の活用6.テレワーク・フレックスタイム制度の導入7.業務プロセスの見直し8.定年退職者の再雇用・定年延長9.外国人材の受入れ10.その他(出所)法人企業景気予測調査(令和元年(2019年)7~9月期調査 結果の概要)より作成。2.2 法人企業統計調査について本稿で用いる上述の景気予測調査で「従業員確保の取組」についての回答を分析するにあたり、企業経営者は前年度の確定決算における企業の財務状況から何らかの影響を受けていると考えられることから、法人企業統計は前年度の2018年度のデータを用いる。2.3 分析データについて分析にあたって、景気予測調査と法人企業統計の個票を接合した*8。データの企業分類は表2のとおりである*9。景気予測調査の対象は、法人企業統計の法人56 ファイナンス 2020 Nov.連載日本経済を 考える

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