ファイナンス 2020年11月号 No.660
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3 1は数ではなかったこの小題は誤植ではない。プラトンからアリストテレス、古代エジプトのユークリッドに至る古代の学者は「1は整数の単位であって整数自体は2から始まる。」と主張した。そもそも、数として整数しか観念しないので、例えば2と3との間の数は存在しないこととなる。因みに、「数」「量」は別物で一緒に議論してはならないとまで説いたと言う。0や1も数として認め、整数以外の様々な数の存在も認め、数を連続的な存在と捉え、「数」「量」を区別なく考える現代的理解の普及は、16世紀のステヴィンから漸く始まった。4 フランス革命は数学革命でもあったイスラム・アジア世界で発明されたアラビア数字、10進法、小数表示等々現在の数の道具は、12世紀以降に西欧に伝来したと見られる。しかしながら、それらの有用性を西欧内で説いたのは西欧に伝来して400年後のステヴィン、更に実際に採用されたのはステヴィンが説いて200年後のフランス革命後であった。著者は、貨幣・度量衡の有する社会的慣性が10進法、小数表示等の発明・普及を阻んだのではないか、フランス革命政府の強大な権力によってのみ10進法に基づくメートル、キログラムを導入できたのではないか、との見方を示す。日本、中国では古来貨幣・度量衡のみならず数詞の表記法・発音も10進法に則している。西欧ではいまだに貨幣・度量衡は複雑で、数詞の表記法・発音にも12進法、20進法等の名残が認められ、日本の西欧語学習者を悩ませてきた。「物理で答えよ。」評者は数学好きな反面、数学に類似すると言われる物理は嫌い且つ苦手である。高校の物理の定期試験で1問だけ数学の問題に「見えた」ので「見えた」通りに解いたら、大きな赤丸の隣に更に大きな赤字で「物理で答えよ。」との教育的指導が添えられていた。数学好きゆえに手に取った本書ではあるが、数学や物理学が一握りの天才の机上の閃きで短時日に発展したものではなく、「算術オタク」のネイピア等の先人の不撓不屈の努力・執念で実社会の問題を解決する中で時間をかけて発展したことを知ることができた。これも著者の精力的な科学史研究の賜物である。数式を全て読み飛ばしても本書の意義は減じるものではなく、実際のところ評者も多くの数式は歯が立たない。支えるヤツがいるから、輝けるヤツがいる。指数、対数、対数関数apは底aをp回かけ合わせる操作を表し、底aの右肩に書かれた数字pを指数と言う。b=apが成立する場合に、指数pは底aに対する真数bの対数と言う。底を固定して様々な真数に対応する対数を書き並べた表を対数表と言う。26=64=8×8=23×23=16×4=24×22から推測されるように、ap×aq=ap+qが一般的に成り立つ。桁数の多い数字の掛け算は手間の多い計算となるが、対数表を用いて掛け算を足し算に置き換えると手間が大幅に減る。xからyに対応させる関数においてx=ayが成り立つ時、yは底aに対するxの対数関数と言う。xとyを入れ替えるとy=axで、yは底aに対するxの指数関数に他ならない。学校教育では指数関数を教えた後に指数関数の逆関数として対数関数を教えるが、対数は指数よりも先に考案されていたので、歴史に照らせば説明の順序が逆であるし、ネイピア等が指数なしに対数を考案したのは驚異的と評価されている。三角比、三角関数三角形は相似形の性質や3つの内角の和が180度となる性質を利用して測量等にも利用し易く、特に直角三角形は斜辺の2乗が他の2辺の2乗の和に等しい(三平方の定理)。これらの性質を利用して三角形の内角に関わる様々な線分の比を表すのが三角比で、三角比を拡張して180度以上を含む様々な角度に関わる様々な線分の比を表すのが三角関数である。微分、積分講学上、局所的な変化を捉えるのが微分で、局所的な量の大域的な集積を扱うのが積分と説明される。不正確との誹りを覚悟して徒競走に例に説明すると、走行速度の変化を分析するのが微分で、走行距離の合計を分析するのが積分となろう。この例を見ると微分と積分とが関係ありそうだが、17世紀の「科学革命」以前は微分と積分とは無関係と考えられていた由。評者の学生当時は大手コンビニのテレビCMに乗せて「微分、積分、いい気分」と強がる鼻歌も聞かれた。 ファイナンス 2020 Nov.53ファイナンスライブラリーライブラリー

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