ファイナンス 2020年11月号 No.660
51/90

いが、すごい大河マンガになってしまって、向こうも見るまえに断った」といい、漫画に見切りをつけて、東映動画を選んだという。その間、「太陽の王子ホルスの大冒険」(岩の巨人モーグに助けられた少年ホルスはモーグの肩のトゲ(実は名剣「太陽の剣」)を抜いてやり、モーグと共に悪魔を退治する冒険談)(1968年)、「パンダコパンダ」(突然パンダの親子がやってきて、日常生活が冒険の舞台に転化する話)(1972年)等の劇場アニメ、「アルプスの少女ハイジ」(74年)等のテレビアニメ制作に携わり、「未来少年コナン」(1978年)の演出を手掛け、「ルパン三世 カリオストロの城」(「原作を完全に自己流に組み替えて、巧みな演出で冒険とロマン、人間味あふれる『宮崎アニメ』の典型的作品」(1979年)で劇場作品を初監督。「アルプスの少女ハイジ」について、若き日の宮崎監督は、「子どもたちをものすごく集中させることが…テレビでも可能だとは思わなかったんです。それが可能だと証明したような気がしたんですが、ただ証明し続けるのには、とてつもない非人間的なエネルギーが必要でね。それはもうむちゃしましたから、本当に。床で寝てはい起きて、また描いたりしてね。それで病気になる奴はやる気がないからだというふんい気でね。カゼもひかなかったですね。」と語る。初のアニメ雑誌「アニメージュ」に連載した自作漫画をもとに、84年には「風の谷のナウシカ」を発表、自ら原作・脚本・監督を担当し注目される。その後はスタジオジブリで監督として「天空の城ラピュタ」(86年)、「となりのトトロ」(88年)、「魔女の宅急便」(89年)、「紅の豚」(92年)、「もののけ姫」(97年)、「千と千尋の神隠し」(2001年)、「ハウルの動く城」(04年)といった劇場作品を発表。2001年の「千と千尋の神隠し」は日本で興行収入300億円超え、今も日本の歴代興行収入1位に燦然と輝く。2001年、仏国家功労賞とパリ市勲章をダブル受賞。2002年、「千と千尋の神隠し」でベルリン国際映画祭の金熊賞をアニメーション作品で初めて獲得するとともに、アカデミー長編アニメーション部門賞を受賞。2005年のベネチア国際映画祭で名誉金獅子賞を受賞。2001年にオープンした「三鷹の森ジブリ美術館」の構成・演出も手がける。2012年、アニメーション映画監督として初めて文化功労者。そういえば、宮崎駿以前のアニメでは、アニメ映画の原作者が誰かは浮かんでも、監督が誰かは浮かばない。「となりのトトロ」、「魔女の宅急便」を観た黒澤明監督は、「とても感激してね、猫バスなんてすごく気に入った。だって思いつかないでしょ。「魔女の宅急便」は泣いちゃってね。」と語ったという。スタジオジブリの鈴木敏夫代表取締役プロデューサーによると「企画につながる彼の情報源はふたつしかありません。友人の話。それに、日常、スタッフとのなにげない会話です。『企画は半径三メートル以内にいっぱい転がっている』」、「宮さん(宮崎駿監督)と僕が話して、「鈴木さん、つぎどうしよう。『千と千尋』って話を考えたんだけと」と言い出す。話を聞いて、「それいいじゃないですか。」と僕が答えて、これで終わり(笑)。しかも、企画をシナリオに起こしたり、イメージボードを作ったり、という作業はすべて宮さんがひとりでやってしまう。」、「彼は絵を描くときに、資料はいっさい見ません。」、全体像から部分を考える西洋の建築と異なり、「日本の建物は部分からはじめる。まず第一に、床柱をどうするのか。つぎに床柱に見合う床板を探す。…その部屋が完成してはじめて、隣の部屋のことを考える。その後、〈建て増し〉をくりかえし、全体ができあがる。」が、宮崎駿監督も同じように、部分から考えるという。「ハウルの動く城」で、「宮崎駿は、まず、大砲を描き始めた。これが、生き物の大きな目に見えた。つぎに、西洋風の小屋とかバルコニーを、さらに大きな口めいたモノを、あげくは舌までつけくわえた。」、「これが宮崎駿が西洋で喝采を浴びる原因だ。西洋人には何が何だか、わけがわからない、理解不能のデザインなのだ、だから、現地での反応も、豊かなイマジネーションだ、まるでピカソの再来だとなる。」、世の中が変わり、ジブリも変わったが、「そういう変化に全く影響を受けていない男が」「ほかでもない宮崎駿監督です」、「彼の食事は、僕が付き合い始めてから二十五年間、ずっと毎日、奥さんの手弁当。」、「毎日、おいしいものを食っていたら、舌が麻痺して、何がおいしいんだか、わからなくなるのがおちだからです。というわけで、宮崎駿の五感、視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚は、とぎすまされたままで鈍っていません。」、という。 ファイナンス 2020 Nov.47サヨナラ、サヨナラ、サヨナラSPOT

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る