ファイナンス 2020年11月号 No.660
5/90

巻頭言「孤独の解消への挑戦」株式会社オリィ研究所 代表吉藤 オリィ皆さんは、街中で車椅子の方とすれ違うことはよくありますか?あまりないのではないでしょうか。肢体不自由の車椅子に乗っている子供たちが通う特別支援学校は全国に約340校あり、年間2000人弱が卒業しますが、そのうち就職できるのは約100名、5%程度に過ぎず、進学率はもっと低い。今の日本社会はあらゆるサービスが基本的に体の動くことを前提に設計されており、体が動かなくなったら圧倒的に厳しいのが現実です。日本の平均寿命は毎年伸びていますが、健康寿命と平均寿命の差はほぼ縮まっていない、つまり誰もがいつか寝たきりになる可能性は高く残っています。しかし私たちは、体が動かなくなった後、自分がどうなっていくのか、どうやって生きていくべきなのかということを知りません。「寝たきりになった後の人生戦略」というものが存在していない。では、そこで楽しく孤独にならないで生きていくにはどうしたらいいのかということを私は考えています。つまり「孤独の解消」の研究です。申し遅れましたが、私はオリィ研究所代表の吉藤オリィと申します。OriHime(オリヒメ)という分身ロボットを作って、寝たきりなどの状況でも他者とのコミュニケーションや、カフェなどで働くことを可能とする社会を目指し、日々研究・開発をしています。現在オンライン会議ツールが一般化したことで、知的労働のテレワーク化が進んでいますが、就業経験の少ない障害者の方は対応が難しい。そこで、物を運んだり、レジ打ちをしたりという肉体労働のテレワーク化が出来ないかと考え、ALS等の寝たきりの方がOriHimeを使って接客をする「分身ロボットカフェ」という取組みを実施しています。OriHimeができることは、おしゃべりや手を振ることなどが中心ですが、それを遠隔で、場合によっては眼だけで操作します。操作は決して難しいものではなく、そこから一歩一歩ステップアップしていけるような働き方、暮らし方をどうやったら作れるかということを、寝たきりの方々と協力しながら考え、進めています。例えば、OriHimeでの就労経験をSNSなどで発信し、人との繋がりが広がっていき、懇親会や旅行などにOriHimeで参加される方もいます。彼らの「働きたい」「誰かの役にたちたい」というモチベーションはとても高く、色々なことを学習し、私たちも全く知らなかったような知識を集めてくれたりもします。そういった空間を作る際に大切にしているのは、寝たきりの方だけでなく、健常者でも働きたいと思えるものにすることです。寝たきりの方々は私たちにとって、患者さんではなく、いつかくる自分たちの未来の姿であり「寝たきりの先輩」。今、寝たきりの人たちのために、彼らが働ける環境を作っておくことで、彼ら自身のためだけでなく、私たちの将来においても、孤独にならずに誰かに必要とされ、色々な人と新しく出会いながら働き続けられる社会を構築できるのではと思っています。今日本はゲーム大国やロボット大国という面よりも、超高齢化大国として世界から注目されています。いつか自国もそうなっていく、じゃあ日本はどうしていくのかと。であれば、日本の寝たきりの人たちは呼吸器を付けながら、こんなにも楽しく働いている、これって十分世界に輸出できる価値になると私は思っています。これから、彼らがどんどん社会に出ていきます。是非それを皆さんも応援してください。その姿は「彼ら」ではなく、いつかくる「我々」でもあります。ファイナンス 2020 Nov.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る