ファイナンス 2020年11月号 No.660
46/90

1はじめに―『スパイの妻』、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞受賞!丁度、本稿を書いているときに嬉しいニュース。ヴェネチア国際映画祭で黒沢清監督の「スパイの妻」(太平洋戦争の直前に国家機密を偶然知って、正義のために世間に公表しようとして反逆者と疑われる夫と「スパイの妻と罵られながらも愛する夫と手に手を取って生きていこうとする」妻の物語。NHKのBS8Kで放送されたドラマの劇場版化。黒澤監督最初の「時代劇」。)が銀獅子賞(監督賞)を受賞。新型コロナウイルス感染症の影響で現地入りできなかった黒沢監督は授賞式にビデオメッセージで、「この年齢になってこんなに喜ばしいプレゼントを頂けるとは夢にも思っていませんでした。ほんとに長い間、映画を続けてきてよかったなとしみじみ感じています」と喜びを語り、授賞式のあとの記者会見では、審査員長を務めたハリウッド女優のケイト・ブランシェットが「すばらしい監督による映画はいくつもあり難しい決断だったが、最終的にはこの作品が監督賞だということは明らかだった」と述べ、黒沢監督を称賛。日本の監督がヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞するのは2003年に北野武監督が映画「座頭市」で受賞して以来、17年ぶりの快挙。「現代社会に生きる人たちの不安などを描き、映画界の巨匠、黒澤明監督にちなんで『もう一人のクロサワ』とも称されて国際的に高く評価」されているという黒沢清監督(1955年~)は、1982年の邦画興行収入1位の薬師丸ひろ子主演「セーラー服と機関銃」で助監督デビュー。1997年、役所広司主演の「CURE」(「マインドコントロールを使って猟奇殺人を続ける男と、事件を追う刑事」のサイコサスペンス。フランス、「ル・モンドの映画評論家、ジャン=ミシェル・フロドンがこの『CURE』を東京国際映画祭で観て大絶賛」、これにより黒澤清監督は世界の注目を集め、以降の黒沢監督の長編作品はフランスで全て劇場公開されているという。カンヌ国際映画祭では、2001年に「回路」(インターネットを媒介して人々が消えていくという恐怖を描いたサスペンス・ホラー。)が国際批評家連盟賞を受賞。2008年には、父親の解雇をきっかけに、家族の秘めた思いがあらわになっていく人間ドラマ、「トウキョウソナタ」でカンヌ国際映画祭の「ある視点部門」の審査員賞受賞。さらに2015年には、失踪後、死者として戻ってきた夫を妻が受け入れ、一緒に旅を続けるという「生と死の境を超えた」不思議な人間ドラマ「岸辺の旅」でカンヌ国際映画祭の「ある視点部門」の監督賞を受賞。昨年のトロント国際映画祭(北米で最大の規模。アカデミー賞を狙う作品がお披露目されることも多く、世界的な注目が集まる。)で、黒澤監督は、海外での反応について、「トロントの人は映画を観てわかりやすく反応してくれたり、フランス人は「これはああいう意味だ、こういう事だ」とか言葉で解説したり、国によってあるいは人によっても映画を見るときの姿勢が違うのだなと感じます。ですが、よく見てみると同じように怖いところでは怖がり、感動するところでは感動し、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ―最近の日本映画とその海外展開(中)元国際交流基金 吾郷 俊樹9月のヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した黒澤清監督。2019年のトロント国際映画祭、Japan Film Night」にて、国際交流基金提供42 ファイナンス 2020 Nov.SPOT

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る