ファイナンス 2020年11月号 No.660
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(2)主力返礼品(ルアー)の増平成30年度にふるさと納税の額が、前年度の464万円から1,709万円に増えたのは、ひとえに返礼品として、この年から始めたバス釣りのルアー(疑似餌)がヒットしたからであった。(1,709万円のうちルアー1,194万円)海津市を流れる大江川は、お隣の養老町の五三川と並び、東海地方でも有数のバス釣りスポットである(関西の琵琶湖、関東の河口湖的なイメージ)。たまたま、現在の企画財政課長の趣味がバス釣りで、そこから生まれたアイディアであった。せっかくの人気返礼品なので、それを伸ばさない手はない。ルアーの返礼品の数を令和2年度には、これまでよりも増やしてもらうことができた。(3)主力返礼品以外の新返礼品の開拓とは言え、ルアーの一本足打法では、仮にルアーが出せなくなったというときに、ふるさと納税額が激減する虞がある。そのため、返礼品の種類を増やし、ふるさと納税額を安定化させることにも努めた。具体的には、餃子やスイーツ、飲料水等である。これらの店に、ふるさと納税に返礼品を出すようお願いに当方と担当職員で回った。また、ふるさと納税の事業者を集めて、「ふるさと納税の事業者は、ある意味海津市の代表です!」ということを当方から説明した。地道な努力もあり、返礼品は、平成30年度の約80件から現在は、142件まで増えた。また、既存の返礼品(コメやウナギ)についても、「○○ヵ月連続配送」とすることで、寄附の単価を上げることができた。ふるさと納税は、議論の分かれる施策であるとは認識しているが、実際に地方でふるさと納税を増やす取組みをした身としては、地方創生の観点からは大変有用な施策であると思っている。神戸大学の保田隆明准教授も指摘しているが、返礼品提供事業者は、中小事業者であることが多く、自前のインターネットでの販売チャンネルを持たないことが多いが、ふるさと納税ではそれがお手軽に実施できる(特に事業者の手間がかからずに、「ふるさとチョイス」や「楽天のふるさと納税」等のページに載せることができる)ため、それらの事業者にネット通販の疑似体験や足がかりを提供している(保田2019)。つまりは、これまでになかった都市→地方の中小事業者への新しいカネの流れを創出しており、それを拡大させる可能性がある。また、地元の事業者への説明会では、事業者の方々に「我々は(ふるさと納税において)海津市に貢献している。海津市の代表だ。」という意識の芽生えを感じた。この郷土愛もしくは、シビックプライドが生まれることが、何よりも地方創生において大事であり、そのきっかけとなるのではないだろうか。● 市主催のバス釣りイベント実施「地方創生は、上から押し付けられるものでも、周りの市町村を真似するものでもなく、その地方に住む人が、他の地方と違う魅力をしっかりと認識して進めていくべき」と片山善博元総務大臣がその著書で語っていたが、当方もそれには全く同感で、「海津市に既にあるモノ・コトに磨きをかけてヒトを呼ぼう」と決めて海津市に赴任してきた。(余談だが、「海津市を音楽の街にしてくれ」とか「海津市を芸術の一大拠点に」と要望される高齢の市民の方が時々やってくる。「海津市には音楽や芸術で有名な人が過去にも現在にもいないし、住民が特に音楽や芸術好きでもないのに」と思い、その提案の理由を聞くと、「いや、俺音楽好きだし・・・」とかそういう荒唐無稽な答えが返ってきたりする。今から音楽や芸術の街と打ち出しても、定着するまでに相当の期間がかかるだろうし、そもそも定着しないかもしれない。定着する前に、海津市が消滅している可能性のほうが高い。)町を歩きまわり、色々と情報を収集したところ、前述のとおり海津市は東海地方有数のバスフィッシングスポットとうことに行き当たった。ところが、バスは特定外来生物ということもあり、海津市には、これまでバス釣りで町おこしをしようという発想がなかった。自分も、バス釣りで町おこしをするのは、なかなか厳しそうだと当初考えた。「池の水全部抜く(テレビ東京)」という特定外来種の駆除をテーマにした番組が流行っており、特定外来種は活用するものではなく駆除が世の流れである。しかし、いくら探しても海津市に外から人を呼べる既存のコンテンツがバス釣り以外に見当たらなかった。そして、岐阜県の条例や海津市の条例を調べても、バス釣り自体は規制されていな ファイナンス 2020 Nov.33地方創生の現場から【第9回】

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