ファイナンス 2020年11月号 No.660
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詰まる所、海津市の財政はすぐに夕張市のように、財政再生団体となるほどではないが、このまま手をこまねいていられるわけでもないという状況であった。何らかの対策が急務であった。● 包括予算制度の導入海津市では、当方赴任前の平成31年度予算策定までは、予算編成方針において「前年度当初予算より単年度のみの一過性の経費を控除し、一律10%をカット」というシーリングをかけていたが、特に10%という数字に根拠はなく、かつあまりにも厳しい要求のためシーリングが守られることはなかった。そして、企画財政課予算係で予算を査定することとなるが、係が補佐以下3人しかいないため、予算を見ることに限界があった。そのため、東京都の足立区や愛知県の豊明市で導入されている、包括予算制度という予算編成方法を令和2年度予算編成方針から導入することとした。包括予算制度の内容については、実施している市によってまちまちで、統一的なものがあるわけではないのだが、(1)翌年度の一般財源(市税、地方交付税等、臨時財政対策債発行可能額、等)を見積もる(2)人件費や公債費といった義務的な経費を除く(枠に含めるところもある)(3)残った部分について、前年度の予算とその執行状況等を踏まえ、各部局に配分する(4)各部局の部局長のマネジメントにより、その予算枠を守るといった流れは概ね共通すると思う。(詳しくは、包括予算制度で検索してみてほしい。特に豊明市にはヒアリングに行き大いに参考にした。)つまりは、歳入をしっかりと見積もり、これだけしか支出できませんというのを明らかにしたうえで、マンパワーや個別の業務の知識の不足する予算係から、業務に精通している各部局長にこれまで以上に予算編成の責任をお願いするという制度である。これにより、(1)歳入をしっかりと見積もることで、一律のカットと異なり、予算の枠についての説得力が増す。(2)各部局長は、これまで予算の削減は予算係任せで過大に予算要求をしていたが、各部局長があらかじめ予算枠を与えられることで、それが抑えられる。(3)予算の査定が、マンパワーに欠け、各部局の業務に疎い予算係ではなく、それぞれの業務に詳しい部局長が責任を持つことで、より効率的な予算の策定が可能になるといった効果が期待された。赴任が7月で、予算編成方針の作成が例年9月であったため、2か月しか準備期間がなかった。各部局長に、包括予算制度の内容については丁寧に説明をしたが、これまでの予算編成方法と大きく異なることからどのような結果となるかは、大変不安であった。ところが蓋をあけてみると、10の部局のうち、予算枠が守れないと言ってきたところは、2つのみであとは枠内に予算が収まったため、例年よりも査定にかかる時間が短くなり、「例年になくスムーズに予算編成ができたし、予算の総額も抑えられた」と市長から評価をしていただけた。令和3年度の予算編成も引き続き、包括予算制度により実施しているところである。●  令和3年度から、海津市未来創生予算枠の新設海津市の財政状況はあまり良くない(ちなみに、近隣の地域の市町村も、大垣市や輪之内町という企業が比較的多く立地しているところを除いてあまり財政が良くない)が、とはいえ新たな移住・定住者を増やすためには、関連する施策に適切に予算を配分しなければならない。その問題意識から、令和3年度予算編成より、各部局の予算枠とは別に、「海津市未来創生予算枠」として1,500万円の予算枠を設定し、(1)関係人口の増加、(2)移住・定住人口の増加に資する施策については、この予算枠に含めることも可能とした(財政係でなく、企画担当係が案件の採択を行う)。その財源は、当方の努力(後述)もあり近年好調に増加しているふるさと応援寄付金(以下、ふるさと納 ファイナンス 2020 Nov.31地方創生の現場から【第9回】

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