ファイナンス 2020年11月号 No.660
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と、平成30年度は、7億円の黒字どころか、1.83億円の赤字である。ここ10年の実質単年度収支をみると、平成25年度より、赤字が継続していることが見て取れる【グラフ4】。つまり、海津市は歳入に見合った歳出規模となっていないのだ。実質単年度収支の赤字が継続しているがゆえに、平成22年度以来、財政調整基金は、およそ8.0億円、繰越金は、およそ8.4億円ピークより減少している。【グラフ5】ここで、①財政調整基金とその地方財政における重要性と②実質単年度収支の重要性について補足説明をしておきたい。新型コロナウイルス感染症の影響により、東京都の財政調整基金が95%減少というニュースが話題となったが、この財政調整基金を保持することは、資金繰りの観点から、地方財政にとって大変重要なのである。ファイナンス読者の方々には釈迦に説法になるが、国家財政では、(望ましくないが)歳入が不足する際には、財政法第4条の例外として、特例公債(赤字国債)を発行することで、歳入不足を補っている。この特例公債は、建設国債と違い、使途が建設関係に限定されない。一方、地方自治体も地方財政法5条により、建設関係事業等に地方債の起債が制限されている(臨時財政対策債という例外はあるが)。国と違う点は、使途が制限されない赤字国債の発行が認められていないことにある。つまり、起債についての制限が国よりも大きい。そして、地方自治体も国と同様に、近年は社会保障費関係の歳出が増えており、その費用については、起債が不可能である。そのため、歳入不足が見込まれる際には、基金の取崩しを予算に入れることなしには、予算編成が大変に難しくなる。つまりは、借金という手段が取れないので、貯金をしっかりと持っておく必要があるのだ。この国と地方の違いは、意外と認識されていないのではないだろうか。また、実質単年度収支という数値も、個人的にはもっと注目されていいのではないかと思っている。実質単年度収支の赤字は、どんなに財政状況がいい市町村でも時々発生する。例えば、庁舎の建て替えや道路の新設がある年には、赤字となるのも仕方ないであろう。一方で、海津市はここ数年、特に明確な理由もなく赤字が続いていた。これは、歳入と歳出のバランスが崩れていることを示している。実質単年度収支の赤字額を見れば、どれだけ歳出の削減(もしくは歳入の増加)をしなければいけないのかの目安になる(海津市の場合はおよそ1.5億円)。海津市の財政担当者も、今の財政状態ではよくないとは承知しているが、「果たしてどれだけの額の収支を改善しなければいけないのか」については、把握していなかった。この収支は一つの目安となるのではなかろうか。話を戻す。海津市の財政調整基金残高は、平成30年度末時点でおよそ11.6億円であり、仮に毎年2億円ずつ取崩すこととなれば、6年で基金が消滅することとなる。それに、それより前に予算編成自体が難しくなることが予想される。財政悪化の理由は、ひとことで言い表すことができず、複数の理由が重なって生じているのだが、主な理由としては、(1)人口流出等による、市税収入や交付税収入の減少(2)3町の合併後、重複する公共的施設があるが統廃合が進んでいない(例えば、今年の3月まで図書館が3つあった。)(3)安価な合併浄化槽でなく、下水道を導入しているが、集落が点在していることや、川で町が分断されているために下水道の建設・維持管理にかかる費用が大きく下水道会計への一般会計からの繰出金が多いこと(類似団体中ワースト)が挙げられる。グラフ4392226293(141)(661)6(170)(303)(183)(129)(800)(600)(400)(200)0200400600(百万円)平成22年平成23年平成24年平成25年平成26年平成27年平成28年平成29年平成30年令和元年グラフ54006008001,0001,2001,4001,6001,8002,000平成22年平成23年平成24年平成25年平成26年平成27年平成28年平成29年平成30年令和元年(百万円)財政調整基金残高繰越金30 ファイナンス 2020 Nov.

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