ファイナンス 2020年11月号 No.660
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そして、この輪中地域に住む人の心性を表す言葉として、「輪中根性」というものがある。「同一輪中の仲間内では、一蓮托生のため結束が強いが、よそ者には排他的」と説明されることが多いが、「水害に悩まされることがなくなった今でも、この根性は残っている気がする」とよく市内の人は言う。海津市の近現代の歴史で特筆すべきことと市内の人に問えば、どの人も間違いなく平成の合併のことを語ると思う。海津市は、海津町、平田町、南濃町という3つの町が平成17年に合併して誕生した新しい市である。全国どこの合併した市町村も、合併については、悲喜こもごもあるのだろうが、海津市のこのエリアは、先に説明した輪中根性の残る地域である。必然的に、合併後15年が経過した今も、旧町の住民間でなんとなくの居心地の悪さがあり、イマイチ「海津市」としての一体感に欠ける印象がある。さらに踏み込んで言うと、「海津市民」意識どころか、「岐阜県民意識」というものがこの地域には薄いと言われている。それは、この市が県境に位置しているためである。西部の南濃町は、揖斐川を挟んで海津町、平田町と分断されており、普段の買い物も隣県の三重県桑名市のほうに行ってしまう。海津町や平田町の人は、桑名市にはいかず、岐阜県の近隣市町村(輪之内町のビッグ(イオン系スーパー)や羽島市のバロー(東海地方の大手スーパー))に行くが、大きな買い物は、愛知県のほうにも行く。このように、日常的に他市どころか他県にいくこともあり、海津市民意識も岐阜県民意識も醸成されにくい。あるとすれば、旧町ごとの町民意識である。そんな土地に、よそ者の自分は赴任することとなった。とは言うものの、自分がのけ者にされたとか、そういうことは全然なかった。後に説明するような、新しい取組みにも色々と挑戦してみたが、役所の人をはじめとても好意的にとらえてくださっている。最後に、簡単に事務的に海津市の説明をさせていただく。人口は、先に述べたように3万4千人ほど。高齢化率は、29.1%(平成27年)で全国(26.7%)よりも高齢化が進んでいる。有名な日本創成会議のレポートの、「消滅可能性都市」にもしっかりと入っている。自他ともに認める農業の盛んな地域で、耕作面積率(耕作面積/総土地面積)は32.9%で全国(11.8%)よりも高い。ただし、多くの人が農地を営農法人に貸し出しており、実際に農業を生業として営んでいる人はそこまで多くはない。主要な観光地として、千代保稲荷神社や木曽三川公園。RESASで地域経済循環図をみると、地域経済循環率は73.0%と低く、支出も多く市外に流出している。つまりは、海津市に住んではいるが、外の地域(近くの大垣市や桑名市、そして少し遠い名古屋市等)に働きに出て所得を得て、かつ市内に商業施設が少ないため消費も市外で行っているという、市に住んでいるだけの人が多い。2 海津市の財政問題と具体的な取組み事項(財政関連)では、自分が、どのような問題意識をもち、どのような業務に取り組んできたのか、時系列に沿いながら説明していきたい。まずは、全国の市役所初のバス釣りのイベントについて・・・といきたいところであるが、ここは財務省の広報誌「ファイナンス」。そのため、まずは皆さんがより興味があるだろう地方財政分野で当方が取り組んできたことを紹介したい。「シティマネージャー制度で赴任した職員が市財政?」と思われたかもしれない。そして、その疑問はごもっともである。当初は、地方創生担当部長という肩書で赴任しており、地方財政について担当することはないだろうと自分も思っていた。しかし、赴任後3か月で「令和2年度海津市予算編成方針」を自分が書くことになるほど、どっぷりと財政を担当することとなってしまった(自分のように様々な業務に便利屋的に使われている派遣者は結構いるのではないかと思う。個人図3 木曽三川の古地図28 ファイナンス 2020 Nov.

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