ファイナンス 2020年11月号 No.660
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また、既存のインフラとして、放送大学のような通信教育の活用も検討課題だろう*52。放送大学受講者数は人口比率でみて本土の倍で、受講年齢層でみると、30代、40代が沖縄県のボリューム・ゾーンとなっており、本土のカルチャー・センター的な高齢者の生涯学習というイメージとは受講層が異なると感じられる。看護助手⇒准看護師⇒看護師という看護職員のヒエラルキーについて本土との賃金格差を見ると、低層の職種ほど本土との賃金格差が広がっていることが確認できる。つまり、放送大学などで学ぶことによって資格を取得することが収入の増加に直結しており、収入増のため、資格取得のための放送大学受講という明確な目的意識が存在するのではないかと考えられる。また、離島地域における「15の春」問題をはじめとして、地元を離れることなく高等教育を受ける機会の拡充は非常に重要であり、今回のコロナ禍を通じたオンライン授業の本格的試行は、今後の大学教育のあり方を変革する機会にもなりうる。ただし、理工系に関しては、なによりも就業の場が問題となるため、製造業については状況は変わらない。ICT系についても、スキルの高いエンジニアがリモートワークで高い生産性を上げるというモデルは考えうる(ワーケーション)が、学卒で沖縄で就職して高いスキルを習得できるかが問われる。Googleのような世界レベルの企業の研究拠点が沖縄にできる、などの条件があれば、長期的には変化の可能性はあると思われ、その意味でOISTの周辺に先進企業の集積を誘致する、あるいは本土大学のサテライト・キャンパスを誘致する等の方策が望ましいだろう。ただし、住居や子弟の教育環境などの生活環境改善の取り組みも必要だろう。(6)おわりに「沖縄の挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄」(沖縄振興開発金融公庫 2003年3月*53)(著者:嘉数啓琉球大学名誉教授(おきなわ公庫副理事長(当時)、沖縄県振興審議会委員)の提言の末尾部分を紹介して*52) 沖縄ツーリスト(株)での活用事例あり*53) 沖縄サミットに向けて、ハワイの東西文化センターなどと作成した冊子。*54) このあと、沖縄高専の設置は2004年に実現。嘉数氏は、「アメリカン大学システム IN OKINAWA」として、米軍基地内で開校しているアメリカン大学の分校を活用した構想を提唱(ブリッジプログラムは、1987年に誕生しており、これの発展形態を志向した)。 http://www.oihf.or.jp/stu_on_base/stu_on_base.html結びとしたい。今回、この冊子を読んで、20年前と課題が依然としてほぼ変わっていないことに驚くとともに、島嶼学の提唱者である嘉数氏の構築した分析枠組みの堅牢さに感服した次第である。「これまでの分析・評価の結果、沖縄で将来にわたって開花すると思われる経済活動分野は、未来志向の観光、健康と食品、スポーツとエンターテイメント、ニッチ地場産業、それにコールセンターやSOHO、中継貿易等のネットワーク型ビジネスである。公的サポートもあって、これらの分野における民間セクターの動きが活発化してきた。むろん、すべてが一直線に進展するとは思われない。特にインターネットに代表されるネットワーク型時代の到来は、スピードと情報の海から『混沌』を読み取る『感性と機敏』さが勝敗を分ける。・・(中略)地域に根付いたグローバル活動の担い手は、繰り返すようだが、柔軟性に富んだ高度の労働力である。すでに分析した通り、沖縄県の労働市場は、急速な経済構造の変化に人材供給が追い付けない需給のミスマッチが顕在化している。・・拡大しつつある労働供給のミスマッチは、とりわけ観光関連及び情報関連産業にターゲットを絞った人材育成で解決の糸口がつかめよう。前述のとおり、人材育成機関としての沖縄の大学及び専門学校は、質、量において他府県に後れをとっている*54。一人当たり所得やインフラ整備の分野で格差は確実に縮小してきたものの、大学進学率は過去28年間、一向に改善されていないという驚くべき事実もある。沖縄が付加価値の高い産業へ脱皮するためには、人的資源への投資が最優先課題であるだけでなく、こうした投資こそが、グローバル・ビジネスへの挑戦に必要なパワーを沖縄の将来を担う若者達に獲得させる有効な手だてとなる。県民が求める真に価値ある生活体系を確立するためのわれわれの選択と、その実現可能性を確実に担保するためには、道路、橋梁及び大型の建造物といった従来の『箱モノ』インフラ整備から、人材育成、研究開 ファイナンス 2020 Nov.25新型コロナウイルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下) SPOT

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