ファイナンス 2020年11月号 No.660
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仲井真知事(当時)が獲得した「国家戦略特区」の指定であったが、一時期活用が低迷して、指定の取り消しが議論された経緯がある*41。今次発足の菅新内閣では、規制改革が「1丁目1番地」である。この政府の方針を踏まえた、これまで以上の思い切った積極的な取り組みを期待したいところだ。(4)「自立」ということは何を意味するのか?冷静に見れば、例えば、日本の都道府県で、財政的に「自立」しているといえるのは、東京都のみである。沖縄県は、自主財源比率は低いほうだが、自治体の財政力でみれば、福岡県以外の九州の各県なみにはなっている。心理学用語では、「自立」という場合、「安定した依存関係を基礎にしてはじめて自立が成し遂げられるといった側面もある」ことがつとに指摘されている。「身近な人たちとの間に適度な相互依存関係をもつことによって自立が保障されているといった見方」である。このような観点からも、「沖縄の自立」ということの意味を深くとらえ直す時期にあるのではないかと考える*42。(5)子供の貧困*43(1)高い出生率についての解釈の紹介・本川裕氏(「統計探偵」)~沖縄の出生率は戦前は最低レベルであったのが、米国統治下にあったことで、本土の各地が高度の経済成長や家族制度など社会の近代化、あるいは社会保障制度の普及などの影響で急速に出生率を低下させていた頃、沖縄はそうした本土の動きからはいわば「切り離されていた」ため、統計が再開された1975年には一気に全国首位に躍り出た、と分析する*44。・山田昌弘氏(中央大学教授)~「子育ての期待水準が低い」すなわち、沖縄は、本土で工業化が進んだ高度成長期に、アメリカの占領下にあったため、終身雇用・年功序列で収入が安定・増加したサラリーマン男性(と専業主婦の家族)が一般化しなかっ*41) 沖縄県 国家戦略特別区域会議 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/okinawaken.html*42) 中央公論2018年10月号の「時評2018 沖縄が象徴する中央・地方関係の難しさ」で、 待鳥聡史京都大学教授は、日本の中央・地方関係が「融合型」であることを念頭に、沖縄問題を踏まえて、今後における「分離型」の検討の可能性についても言及している。極めて鋭い洞察と感服する。ただ、現実には、地方交付税の算定の実際をみても、「融合型」が深く浸透した地方財政制度が確固として構築されていることをあらためて痛感する。参照:「新版 基本から学ぶ地方財政」(小西砂千夫著 学陽書房 2018年)*43) 「子どもの貧困」については、全般的に、「子どもの貧困対策と教育支援」(末冨芳編著 明石書店 2017年)を参照した。貧困の測定については、手法面での改善や深化は着実に進んでいるという(黒崎卓著「貧困の測定方法~よりよい尺度を求めて」(経済セミナー2020年2/3月号))。この問題が深刻な沖縄での積極的な活用が望まれる。*44) 「なぜ、男子は突然、草食化したのか」(日本経済新聞出版 2019年5月)*45) 「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(光文社新書 2020年5月)た。その結果、「世間並みの生活水準」、特に子育て期待水準が高くならなかった。・・・地元に残る若者の中では、大学に進学しない者が多数派で、子どもの進学費用を準備しなくてもかまわないと考える若者が多くなる。さらに、できちゃった婚、離婚、ひとり親世帯が多く、その結果、周りの人の子育ての期待水準も高くない。それゆえ、子ども数が維持されるのである。つまり、子どもを産んで、経済的に不安定な中で育てることが珍しいことではなく、女性から見て、非正規雇用者など低収入の男性と結婚することや、離婚して親族に頼ることが、恥であるという意識が本土に比べて(それほど)高くない地域だからだと考えられるというのだ*45。本土と同じでよしとするだけでなく、社会構造の変化の時間的違いも考慮する必要を示唆しているのではないだろうか。なお、少子化の進行については、沖縄県でも婚姻年齢の高齢化が進んでいる。一方、10代後半から20代前半での妊娠・出産が本土に比べて多く、低所得層における出生率の高さが全体の出生率を高めていることが示唆される。母子世帯における子どもの数でも沖縄県は本土より多くなっており、若い時期に出産をはじめた母が多子を産んでいる状況で、家計の苦しさとともに、いわゆる貧困の連鎖が懸念される。こうした「子どもの貧困」の取り組みについては、全体の平均ではなく、貧困層と本土並み世帯の分布で考えた方が適切で、平均の嵩上げではなく、低所得層の嵩上げに注力すべきとの意見もあり、傾聴に値する。(2)「とても若い政策領域」日本の子どもの貧困対策は、2013年の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(2014年施行)からで、まだ7年ほどしかたっておらず、様々な蓄積が足りない政策領域であることに留意する必要がある。 ファイナンス 2020 Nov.23新型コロナウイルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下) SPOT

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