ファイナンス 2020年11月号 No.660
26/90

組む*33、ということは極めて重要な課題である。内閣府沖縄総合事務局では、「働き方改革・生産性向上推進運動」を提唱している*34。「平成30年度沖縄における生産性向上に向けた労働生産性分析調査」によれば、・全国と比較すると労働生産性が低い状況が続いている。・産業別では、県外では付加価値額の大きい製造業のウェイトの低さが労働生産性の低さにつながっているように見受けられる。なお、県内の「宿泊業、飲食サービス業」は全国との差は小さい。県内の主要産業に関しては、全国平均、ならびに九州の類似県平均と比較しても同程度の水準となっている。・企業規模については、規模の小さい企業の生産性は低い。全国比較では、すべての企業規模で生産性は劣っている。ただ、産業別でみると企業規模に左右されない産業も多い。・売上原価率は全国平均と比較しても、そこまで高い状況ではない。ただ、設備投資に関しては、全国平均よりも劣っている。といった分析がなされた。生産性の決定要因は、人的資本、物的資本、インフラ、社会関係資本、知的資本というストックの蓄積だとされる。沖縄においては、常に「人的資本」の問題が指摘される。全国最下位の大学進学率が典型であるが、高等教育の在り方についての従来にも増して真剣な検討が必要ではないだろうか。また、経営人材の獲得にも力をいれるべきだろう。内閣府では、地方創生の目玉施策として「プロフェッショナル人材戦略」を展開し、どの道府県もその重要性に鑑みて参加していると思われるが、東京都と沖縄県だけが現在実施していない*35。沖縄県は、補助率100%だった1年目のみの参加であった。*33) 21世紀は、沖縄の飲酒文化が企業の生産性に影響を与えていないか、も健康・長寿問題と併せて、真剣に考慮すべき時期ではないだろうか?*34) http://www.ogb.go.jp/keisan/tyusyou/16795*35) https://www.pro-jinzai.go.jp/*36) 前出嘉数啓著「沖縄:新たな挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄 世界の目を沖縄へ、沖縄の心を世界へ」29頁。また、「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」(樋口耕太郎著 光文社新書)も参照のこと。*37) 参照:(株)日本総研・藤波匠著「子供が消えゆく国」(日経プレミアシリーズ)*38) 安倍総理大臣発言(抄)(平成25年12月24日閣議) 「沖縄が日本のフロントランナーとして21世紀の成長モデルとなり、日本経済活性化の牽引役となるよう、国家戦略として沖縄振興策を総合的・積極的に進める必要がある。沖縄への投資は未来への投資であり、沖縄振興の取組を強化するため、現行の沖縄振興計画期間(平成24~33年度)においては、沖縄振興予算について、毎年3,000億円台を確保。」*39) 有名な「東アジアの奇跡」(世界銀行 1993年)でも、「質の良い人材の確保とそれを育成する教育制度の存在」が挙げられている。すなわち、沖縄振興を実施する主体の能力が高いかどうかが重要なのだ。参照:黒崎卓・栗田匡相著「ストーリーで学ぶ開発経済学」(有斐閣 2016年3月)*40) 「経済財政運営と改革の基本方針2020 について」24頁 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf沖縄の企業の多くは、いわゆる「ファミリー企業」で、平均就業者数が少ない。このような零細企業間の競争は激しいが、ほとんどの場合、地域限定型で、分断化された域内市場内のみで競合するので生産性の向上には結びつきにくい*36。製造業では、非国際化企業を基準にすると、中小企業でも、付加価値額・生産性ともに国際化企業に優位性がある*37。国際的なテロ規制などがあるが、公庫にとっても、沖縄の中小企業の国際化支援の在り方は大きな課題である。当面は、まず、大消費地である東京・関東圏で直接営業活動をする沖縄の中小企業の営業拠点への支援なども検討に値するのではないだろうか。ただし、供給能力から考えれば、あくまでもブランディングによる高付加価値化戦略をとらざるを得ないと考えられる。そのための人材がやはり重要である。(2)沖縄振興策での手厚い財政措置のより有効な活用このコロナウィルス感染拡大に起因する不況で、国の財政も大幅に悪化した。振興予算3000億円維持のコミットがあるのは、現状では、現行沖縄振興計画の期間の2021年度までだ*38。せっかくの貴重な財政資金についての有効な使い道をこの機会に再検討すべきである。上述3のように「県土の均衡ある発展」というよりも、それぞれの地域特性(中南部の都市政策(公共交通など)、他の地域はそれぞれの特色にあった施策(まちおこし))を活かした、「ワイズスペンティング」と評価されるような、質の高い個性ある政策の展開を期待したいところである*39。(3)国家戦略特区など規制改革手法の活用「骨太の方針」では、沖縄を「日本経済の牽引役(フロントランナー)」として位置付けている*40。22 ファイナンス 2020 Nov.SPOT

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る