ファイナンス 2020年11月号 No.660
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たり、高率補助が考慮されている*26。沖縄県は、総務省に対し、再三「道路橋りょう費(道路の延長)の投資補正係数の算定における割落としの廃止」の意見を提出してきている。また、投資事業において、地方債を起債した場合、地方債の返済については地方交付税の配分があることから、地方交付税交付金の額は起債しない場合に比べて増えるが、債券の償還にあてるものであり、沖縄で流布する言説と違い自由度が増すわけではない。地方債(借金)の残高が増えると、財政が硬直化するとみるのが素直な見方だろう。第4回沖縄県振興審議会の総合部会(2019年10月23日開催)で、県企画部が、「資料4 沖縄振興に関する各種制度等について」を提出して、沖縄振興制度について詳細に解説している*27。県の上述の資料の検証(平成29年度の普通会計決算の状況)では、「高率補助制度の活用もあり農林・土木費への措置額は高い。他方、地方債発行の抑制により公債費への措置額が小さいことなどから、民生費、衛生費、教育費へも、全国平均を上回る額を措置」(資料9頁)と評価されている。他方で、沖縄県においては、「沖縄『厚遇』あたらず」言説に沿うようなQ&Aを掲載している*28。「問8)沖縄に対しては、国庫支出金や地方交付税により他都道府県と比較して過度に大きな支援がなされているのではないですか。」という問いに対して、「平成29年度普通会計決算(県・市町村分合計)ベースで見てみると、沖縄県の国庫支出金は全国10位、地方交付税交付金も含めた国からの財政移転では全国12位となっています。*26) 赤井伸郎阪大教授が主催する財政学に関する「公共経済、財政研究者の交流のメイリングリスト」(pubeco)での議論において、平嶋彰英氏から2020年3月25日に「公共事業の特例補助率に係る割落し」について丁寧にご教示いただいた。*27) https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kikaku/chosei/keikaku/reiwa1/sougou4.html*28) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/yokuaru-yosan.html*29) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/documents/q8zaiseiitennnohikaku.pdf*30) https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/jyoukyou_shiryou/h30/index.html*31) https://www.pref.okinawa.jp/site/somu/zaisei/index.html*32) 大交流時代、繁栄した那覇・首里と密接な交流のあった博多商人のまち(参照:長谷川博史著「大内氏の興亡と西日本社会」(吉川弘文館 2020年7月)であり、現在、日本のフロントランナーといっていい躍動をみせている福岡市は、大橋洋一九州大学教授(当時)の理論的な指導のもと、特に第3セクターの情報公開制度について、「福岡方式」(拡大型情報公開制度)というユニークな制度を採用している。 参考:福岡市ホームページ「情報公開制度について」 https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/johokokai/shisei/023.html 沖縄県の行政運営の重要な一翼を担う出資法人について、県民への説明責任を適切に果たすために、この福岡市の情報公開制度の趣旨を踏まえた、例えば、「福岡市の主な出資法人の概要」(令和元年版)のような資料の作成が真剣に検討されることを期待したい。 https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/6486/1/R1gaiyou2.pdfまた、人口一人当たりで比較すると、国庫支出金と地方交付税の合計額は全国5位で、復帰後一度も全国1位にはなったことはありません。※順位は岩手県、宮城県、福島県、熊本県を除く。」と記載している。ただし、そのホームページを更にクリックしてPDF文書*29を開けると、「国庫支出金を都道府県別に人口一人当たりで比較すると、本県は、全国1位。地方交付税交付金は、全国17位。」ときちんと解説している。素直にみれば、地方財政計画で決まった地方交付税交付金(総額)を、毎年総務省が地方財政制度審議会の審議も経て、苦心惨憺して全国自治体に衡平に配る1人あたりの順位と、政策的な配慮のある国庫支出金の1人あたりの順位があまりにも食い違っている方が少し奇異ではないか、というように考えるのではないかと思うのだが。奥まったPDF文書に、沖縄県の実務担当者の良心をみるのは、思い入れがありすぎるだろうか?いずれにしても、総務省のホームページ上の「財政状況資料集」には掲載されている沖縄県の分の財政に関する様々な情報*30についても、沖縄県のホームページ上の財政に関する資料*31から読み取ることは困難である。沖縄振興の手厚い財政的な意義について、まずはきちんと県民に知らせる努力を行う必要があると思料する*32。4沖縄振興の中長期的な課題のいくつかについての考察(1)企業の生産性の向上他の地方でも同様な問題であろうが、上述の県民経済計算の中味を踏まえると、沖縄では企業の稼ぐ力が低いと考えられる。企業の生産性の向上に地道に取り ファイナンス 2020 Nov.21新型コロナウイルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下) SPOT

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